「現場に始まり、現場に終わる」 不言実行、庶民派の異端児 ジャカルタ州知事候補 ソロのジョコウィ市長に密着取材

 七月のジャカルタ特別州知事選挙のダークホースになるか―。中部ジャワ州スラカルタ(ソロ)市の自治体運営を高く評価されているジョコ・ウィドド市長(通称ジョコウィ)が出馬登録した。カキリマ(露天商)移転や伝統市場再活性化、授業料や医療費の無料化などを次々と実現させ、不言実行で型破りの庶民派としてソロ市民に敬愛されるジョコウィ市長に密着取材し、知事選に向けた意欲を聞いた。

 「ジョコウィさん、ソロにいてください」。狭い路地裏にジョコウィ市長が入ると、住民が次々と声を掛ける。ジャカルタ州知事選の出馬登録を終えたばかりの市長に対し、残り三年ある任期中はソロを離れず、引き続き地元市民の生活向上に努めてほしいとの思いからだ。
 市長の公用車に同乗し、ソロ市内を巡回しながらのインタビュー。各地で住民と対話しながら「党の指名を受けました。国のために頑張るので理解してください」「これまでのプログラムはそのままです。心配しないでください」と語り掛ける。
 先月、出身政党の闘争民主党(PDIP)のメガワティ党首(元大統領)に呼ばれ、ジャカルタで面会した。ソロの状況や知事選について話し合ったが、党の候補決定はずっと後。「メガワティ氏は頻繁にソロに来ている。いつも各地を案内しているので、市内の様子はよく把握してもらっていると思う」
 市長に対する市民の支持は絶大だ。小中学校の授業料無料化を実現。低所得者層には制服や学用品も支給し、市内の全病院には医療費免除を義務付けた。「市民が直接変化を感じ取れるプログラムが不可欠。高尚な議論は不要。口ばかりでは誰も信じてくれない」

■大都市も同じ
 大都市ジャカルタと中部ジャワの古都ソロ。あらゆる面で規模が異なるが、「鍵になるのは首長のリーダーシップ、強固なシステム、明確なマネジメントの三つだけ。規模の大小にかかわらず、通用することだ」と強調する。「予算規模は、任期五年でソロは四兆ルピアもないが、ジャカルタは百五十兆ルピアと別格。しかし、予算を無駄なく使いこなせなければ成果は見えてこない」
 そして人材だ。「どこにも優秀な公務員はたくさんいる。しかし、システムがしっかりしていなければ、職場で時間つぶしをするだけになる。組織を厳重に監視すると同時に、職員の能力を引き出す環境作りが必要だ」。ソロでは、さまざまな許認可や住民登録証(KTP)など行政手続きの簡略化を短期間で断行したため、任期一年目は職員から猛反発を受けたが、二年目から新しいシステムに沿って動くことができるようになったという。
 大学卒業後、南ジャカルタ・クニンガンにある木材会社に勤務。東ジャカルタ・クレンデルから公共バス「コパジャ」やバジャイに乗って通勤した。出馬登録する際、コパジャに乗って行ったのはこのためだ。「二十五年前といすも床も車体もすべて同じ。何も変わっていない」と指摘する。
 渋滞や洪水など山積する都市問題、利権が複雑に絡む首都の公共事業などにどう対処していくのか。「一、二、三年目と目標を明確に定め、現場の進捗状況を一日ごとに的確に把握する。現時点では公表できないが、すでに詳細にわたる計画を立てている。机上の議論は無用。現場に始まり、現場に終わる。ジャカルタではさらにスピードが求められるだろう」

■対話で支持拡大
 出馬登録後、ジャカルタ土着の民族ブタウィ人の現職知事ファウジ・ボウォ氏が、早速、ジャワの地方都市出身者である市長の批判を展開。市内巡回中も、ジャカルタからひっきりなしに電話がかかる。「どう対処するか」と聞かれても、市長は「応じる必要ないよ」とあっさり。「現職知事がゾウなら私などアリみたいなもの」と笑う。「ソロにも多様な民族、出自、宗教の人々が住んでいる。ましてやジャカルタはコスモポリタン。特定の人々のものではない」
 型破りの庶民派市長として注目されてきたが、ジャカルタ州知事選で名前が取りざたされ始めたのは昨年末。今年に入り、ソロの高校生が造った国産車「エスエムカ」を公用車に採用すると発表、汚職以外の話題に乏しい政界に新風を巻き起こした。
 日本車に対抗する気かと水を向けると「地元の高校生を励まそうとしただけ。エスエムカは市のプログラムでもあり、五年前から製造している。ジャカルタのモーターショーに展示したときには誰も見向きもしなかったのに」とマスコミのもてはやし方に首を傾げる。
 選挙戦では、どのようにソロの成果をジャカルタ市民にアピールしていくか。国民車騒動で寡黙な人柄や自治体改革などに関する展望は知られるようになったが、知名度トップの現職知事らと戦うためには戦略が必要だ。
 「党を通じて隣組レベルまでのキャンペーン準備は始動している。しかし、選挙資金は最小限に抑える。テレビ局はこぞってインタビューを申し込んできているが、選挙キャンペーンと称して高額を要求し、メトロTVは三十分番組で三億ルピアでどうかと。今までトークショーなどには招待されたので出演したが、もちろん無料。今後も無料で宣伝してくれるメディアには応じたい。だがイメージ作りなどより、むしろ市民と対話する機会を増やして、具体的なプログラムを周知することで支持を得ていきたい」

◇ジョコ・ウィドド氏
 1961年6月21日ソロ生まれ。50歳。ガジャマダ大学(UGM)林業学部卒。家具輸出業の実業家。ビジネスで欧州各地を訪れる。闘争民主党(PDIP)のソロ支部長とペアを組んで同党から出馬。2005年の市長選で初当選、2010年に90・8%の記録的得票率で再選した。ソロ市民は親しげにフルネームの略称「ジョコウィ」と呼ぶ。サッカーやヘビーメタルのファン。

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