資金、技術移転、漁獲規制… 課題多いウナギ養殖 地元と協力のシーガーランド

 ニホンウナギが激減する中、資源が豊富で、味も遜色(そんしょく)がないとして注目が集まっているインドネシア産ウナギ。日本からの期待とは裏腹に資金や養殖技術の移転、漁獲規制など課題は多い。量産に向け試行錯誤を重ねるシーガーランド・ウナギ・ジャヤ(SUJ)の中部ジャワ州ソロにある養殖場を訪ねた。      
 錠がかけられた扉の先に、縦3メートル、横2メートルほどの養殖池が10個ほど並ぶ。その奥には幅1メートル強、高さと幅が40センチほどの水槽が300個以上ある。
 「ウナギ養殖は作業が多く、大変な仕事」。水で溶いた魚粉ベースの餌(えさ)を水槽に沈めながら、SUJのイコマン・アルタ・ウィナヤ取締役は話す。
 毎日3回の餌やりや水槽の掃除のほか、大きさが違いすぎると共食いするため定期的に同じ大きさの個体を同じ水槽に集める作業もある。
 特に稚魚のシラスウナギを10センチほどのクロコに育てるまでが難しい。少しの細菌やわずかな水温の変化で死んでしまうためだ。
 初めて養殖を試みた約70キロ分のシラスウナギは、雨水が水槽に入り、中のウナギが全滅した。クロコまで育っても、捕獲時についた傷からの病原菌感染で多くが死亡したこともある。
 餌もウナギの成長や味に直結する重要な要素だ。値段が高く、質の良い餌を使えば、ウナギの質も上がるが、コストも上昇するため、兼ね合いが難しい。
 養殖池の中には、一見するとウナギはおらず、ひっくり返したバケツが3個置いてあるだけ。バケツに穴を空けて、寝床として使っている。イコマン取締役は「日本の道具をそのまま持って来ても、割に合わなかったり、インドネシアの環境やウナギに合わなかったりすることもあり、手作りが多い」と話す。
 日本のウナギ養殖は天然と違い、ほとんど雌が見つからないが、同社の養殖ウナギからは頻繁に見つかっており、研究用に名前を付けて別の水槽で飼っている。理由についてイコマン取締役は「養殖では抗生物質などは使わず、できるだけ自然に近い形で育てているからではないか」と話している。5〜6歳で産卵期になるが、現在4歳の雌がおり、九州大学の研究者も生態研究のため訪れた。
 SUJが目指す年間千トン以上の量産の鍵になるのが、地元業者との提携だ。養殖を始めるには池やポンプなどのための初期費用と餌や電気代、人件費などの維持費がかかる。さらに成魚に育ち、売却するのに1年以上の長い期間を必要とする上、死んでしまうリスクもある。多額の資金がある人以外は参入が難しい。
 スブラスマレット大学数学・自然科学部のスタント副学部長も「ウナギ養殖を一大産業にするための一番の課題は資金だ」と話す。
 提携業者がそれぞれ異なる場所で操業しているため、技術供与や管理が非効率的になっていることも課題だ。技術指導を個別にしなければならず、場所が違えば水質も違い、養殖方法も変えなければならないためだ。
 生育速度やシラスから輸出できる成魚までの生存率を高める技術など、他にも課題は多くある。漁獲規制も必要とされており、SUJはシラスからクロコに育ったうちの40%を放流する取り組みを自主的に始めた。
 イコマン取締役は「地元と一体でやっているため、できるだけ利益を地元に還流することで、長期的に成功できると考えている」と話す。また「行政が資金を援助するなどして、リスクを負担すれば養殖に参入しやすくなり、雇用を生むことが出来る」と期待する。(堀之内健史、写真も)

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