景気の良し悪し
さまざまな環境でビジネスに関わっていると、その時々で景気が良かったり悪かったりすることを感じるが、時折、そもそも景気が良いのか悪のいのかよくわからないと感じることがある。
今年に入ってからのインドネシア経済は、自動車販売の低迷(1〜4月の販売台数で前同比2割以上減)や、資源価格一服による輸出の減速(1〜3月は前同比ほぼ横ばい)などもあって、景況感としてはやや悪化方向なのではと感じていた。ところが今月6日に発表された第1四半期(1〜3月)の国内総生産(GDP)成長率は5・11%と、これまでの成長ペースとほぼ違わない巡航速度と言える水準。これには意外と強い数字だったとの印象を持った人も多かったようだ。では、足下の成長率は何がドライバーになってつくりだされているのだろうか。
GDP統計は、かなり大括りなデータではあるが、需要(支出)サイドと供給サイドの両面からその内訳や寄与度を見ることができる。景気の変動は主に需要サイドの動きに左右される面が強いこともあり、まずは需要サイドの4分類(民間消費、民間投資、政府支出、純輸出入)の動きを見るのが常道だ。
今回の第1四半期GDPの需要サイドの内訳は、約半分を占める民間消費の成長率が4・91%とこれまでとほぼ同水準の伸びを見せた。民間投資も若干弱いがこれまでのレンジ内で推移。一方、大きな変動要因は、純輸出入の減少(輸出入をネットしたもの)で成長寄与度としてはマイナス、他方で政府支出が大きく伸びてこれを打ち消した格好だ。2月の大統領選関連の政府支出や同じタイミングの低所得者層向けの現金給付などが主な増加要因と見られる。この政府支出の伸びはGDP成長率5・11%うちの約1%分に寄与しており、これがなければ4%そこそこの成長率にとどまっていたことになる。
一方、意外に堅調さを保った民間消費はどう見るべきであろうか。3月に始まったラマダンが例年同様に食品消費を嵩上げした分もあると考えられるが、一方でエルニーニョ現象等の影響を受けた不作でコメを中心に価格高騰もあり(3月にはコメの価格が前同比20%超、唐辛子は同45%超上昇)、食品以外への消費が割りを食ってしまった可能性が高い。ただ消費全体で見ると、消費性向(所得に対する消費の割合)に大きな変化はないし、小売売上高指数はむしろ年初来上昇。消費者心理を示す消費者信頼感指数も高水準を維持しており楽観マインドが継続していることを示唆する。
一方、GDP統計を見ていてやや気掛かりなのは、その政府支出の寄与度の推移だ。コロナ期には一時的に財政規律を緩めての積極的な財政出動があり、政府支出の成長寄与度が1〜2割程度となったが、その後22年後半辺りから輸出増加や民間消費の回復により政府支出に頼らない5%成長を実現、この状態が昨年いっぱいまで続いてきていた。今年に入ってからの政府支出依存の上昇はひょっとするとトレンド転換を意味するかもしれない。
この足下の状況を考えると、プラボウォ新政権が掲げる8%成長はやや現実味に欠けるだろう(過去に遡ってみてもアジア通貨危機以降GDP成長率が8%を上回った年は一度もない)。今後、新政権は積極財政策を採っていくことが予想されるが、支出内容がどれだけ成長促進的なものになるかは要注目だ。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)