ルピア金利はどこまで下がるか

 先月18日、インドネシア中銀が政策金利の引き下げを決定した。利下げ幅は最小単位の0・25%。これで政策金利は6・0%となった。事前のアナリスト予想では、ルピアの利下げはドルの利下げ実施を確認してからとの見方が多く、7割以上が金利据え置きと予想していたので、今回の利下げはややサプライズだったと言えよう。いずれにせよ、2022年以降の金融引き締めモードは終わりを告げ、金融緩和モードが始まったことになる。
 今回の政策金利決定に際してのインドネシア中銀からの声明を読むと、この金融政策モードの転換を感じさせる箇所があることに気付く。従来の声明内容との一番の違いは、「経済成長を加速させる必要性」への言及が出てきたことだ。たとえば国内経済の状況認識のパートでは、8月までの声明文で「内需と輸出に支えられ堅調に推移」とシンプルに表現していたものが、今回9月は「経済成長は堅調に推移しているが、成長を加速させる努力が必要」との表現となった。ポジティブなのかネガティブなのかやや分かりにくい表現だが、敢えて読み解くとすれば、景況感自体を下方修正したわけではないものの(今後の先行きを考えると)更なる景気刺激が必要、といったようなニュアンスではないかと考えられる。
 景況感については、確かに経済成長率は5%以上をキープしているし、成長を支える内需も輸出も少なくともマクロ統計上では堅調だ。ただ足下では耐久消費財や高価格帯商品の伸び悩みなど「消費の質」に変化が出てきていることを踏まえると、今後の内需の持続性にも影響が出てくる可能性があると見ておくべきだろう。その意味で、今回の利下げは中銀が景気刺激に舵を切っていく転換点となるかもしれない。
 では今後、インドネシア中銀はルピア金利をどの程度まで引き下げていくだろうか。中央銀行により設定される政策金利は、その時々の景気に応じて緩和と引き締めを繰り返しながら調整されるが、その時々で、景気を冷やしも刺激もしない金利水準(中立金利と呼ばれる)への回帰を目指しながら誘導していくのが常道となっている。ドルの場合は連邦公開市場委員会(FOMC)参加者による予想の中央値としてこの中立金利を公表しており、現状の政策金利より1・5%程度低い2・875%が現時点の水準となっている。
 残念ながらルピアについては中銀が中立金利の水準に言及することは稀だ。ただ、最近IMFがインドネシアの潜在成長率などから算出したデータなどを参考にすると、恐らく今のルピア政策金利の中立金利は4〜5%程度と推測される。また過去を遡っても、現在のルピアの政策金利が導入されたのが2016年以降(この間にちょうど2回の緩和・引き締め局面を経験)、政策金利の平均値は4・8%であったことを考えると、この水準とも整合的だ。
 利下げのペースについては、ルピア為替の動向次第だろうが、ドル金利の利下げペースと歩調を合わせながら下げていくのがメインシナリオだろう。ただ、今回の緩和局面における政策金利の到達点は、ドルが2%台を展望できるのに比べて、ルピアは現状水準より1・5%程度低い4%台半ば辺りと見ておいた方がよさそうだ。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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