景気対策

 世界経済の鈍化傾向が世界的に広がっている。IMFが4月に公表した2025年の経済成長率見通しは、世界経済全体でマイナス0・5%の下方修正。インドネシアについても0・4%引き下げ、4・7%の予想成長率とした。もしこの通りだと、年間の成長率が5%を下回るのは、コロナ期の2年間を除けば2015年以来ということになる。
 今回のIMFの予想見直しは、多分に4月初以降のトランプ関税の影響が加味されていると考えられるが、インドネシアの国内経済については既に今年の第一四半期(1〜3月)のGDP成長率も5%を下回っており、景気の減速感は昨年から出始めていた。今後、世界経済の減速を前提とするならば、需要減速による資源価格の低迷等により、インドネシア経済にも更に逆風が吹き続けると認識しておいたほうがよさそうだ。
 こういった状況下で期待されるのは政府による景気対策ということになる。そしてその手段としては、政府の歳入出を使う財政政策と、中央銀行が政策金利や通貨供給量を調整する金融政策がある。
 金融政策については、先月インドネシア中銀が0・25%幅の利下げに踏み切った。為替レートの安定度合いを見ながらの利下げ運営となるため、今後も大幅な利下げは想定しづらいが、方向としては引き下げが続くであろう。もっとも金融政策の効果についてはやや留保が必要と考えられる。エマージング国における金融政策は、先進国と比べると、その実体経済への波及効果が統計的に見ても弱い又は一貫性が低いと言われる。これは金融市場の発展段階の違いやインフォーマルセクターの存在(インドネシアではGDPの2割以上)により、政策金利の調整が実体経済に伝達される程度が大きく異なることによる。
 そうすると景気刺激策としてより重要なのは財政政策ということになる。直近で政府からも6月から新たな景気対策を実施するとの発表がなされ、低所得者層向けの電気料金割引、鉄道・航空運賃・高速道路料金の引き下げといった項目が示された。消費喚起を主眼に置いた政策との触れ込みだが、実質的には所得制限をつけた給付金に近い項目も複数あり、低所得者層向けのセーフティネットの役割も意識されていると推測される。
 財政政策にもさまざまな手段が考えられるが、これも一般的にマクロ経済への波及効果が高いとされているのが、インフラ工事などの公共事業だ。短期的には工事にかかる雇用創出と資材調達などの需要創出の双方が期待でき、長期的にはインフラとして生産性や効率性の向上に資するため、全体としての乗数効果が高いと見なされる。一方、給付金や公共料金引き下げといった政策は、短期的な所得再分配の効果は見込まれるが、経済全体への乗数効果は相対的に低いと考えられる。
 足下のインドネシアの財政政策を見ると、歳出削減策の一環で公共事業の進捗が大きく低下する一方、所得再分配型の支出に予算配分がシフトしている傾向が見て取れる。現政権の政策的な優先順位が現れた結果とは考えられるが、少なくとも景気促進的かどうかという観点ではあまり大きなインパクトは期待できない。公共事業については前政権時代に、積極的なプロジェクト推進に予算確保が追いつかず、国営ゼネコンの経営不振を招いた経緯にある。現政権でも新設のダナンタラを通じた大型プロジェクトのアイディアが出てきているが詳細はまだ不透明だ。足下の景気減速に政権が今後どんな手を打ってくるか、向こう1〜2年の景気動向にも少なからず影響してくるであろう。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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