次なる一手を欲するスタートアップ

 スタートアップ企業の創出が伸び悩んでいる。通信・デジタル省が「1000 Startup Program」を打ち出した2016年以降、順調にスタートアップ企業の資金調達実現社数、資金調達総額は増加傾向にあったが、21年の931社、総額219億ドルをピークに低下。24年実績では、420社、総額28億ドルにまで落ち込んでいる。それに対し、政府は「Startup Go Global 2024」「Program Road to IPO 2024」を立て続けに打ち出し、専門家からのアドバイス、上場準備など支援できる体制を整えている。
 スタートアップ企業への投資にはリスクが伴うのは言うまでもないが、昨今の調達額の落ち込みには、インドネシア最大のスタートアップ企業GoTo Gojek Tokopedia(配車プラットフォームGojekおよびeコマースTokopediaのホールディング会社)の影響もあろう。22年4月に上場した同社株価は当時376ルピア/株であったが25年5月には70ルピア/株前後まで下落している。有望視されていた同社の株価大幅下落は、投資家に対し投資意欲減退とExitの難しさを示した形となった。
 インドネシアでは、10年国債金利が7・0%前後であることから、株式市場においても期待利回りは高くなりがちである。そのため、一般的に企業が株式市場から資金調達する場合、高利回りを実現するためには割安感を持って株式市場に流さざるを得ない構造となっている。スタートアップ企業における上場の場合、投資家のキャピタルゲインへの期待感は強い。それでも配当利回りは注目ポイントであり、企業側からすると資金調達のハードルが高くなってしまう。スタートアップ企業にとって事業拡大・運営に向けた資金調達は死活問題であることから、この構造上の課題は見過ごせない。
 企業データベース会社Tracxnによると、インドネシアにおけるスタートアップ企業はIT関連が主であり、中でもFinTech(49・6億ドル/1914社)、Mobility(31・6億ドル/411社)、Agri/Food Tech(5・3億ドル/268社)、HealthTech(2・2億ドル/621社)、EdTech(0・4億ドル/775社)分野での立上げが多い(21~23年の総調達額/25年5月時点のスタートアップ企業数)。社会課題解決型ビジネス志向が強まる中、Agri Tech、HealthTech、EdTechなどの活動は非常に意義深いものがある。一方、IT関連市場は変化が激しく、関連規制も頻繁に改定されることから、スタートアップ企業は事業計画の見直しを迫られることも少なくない。また、社会課題解決型ビジネスは収益化やスケールアップが難しい傾向があるのも事実だ。スタートアップ企業はただでさえ価格競争を強いられるため、収益化への道筋も二の矢、三の矢を常に準備しておく必要があろう。資金調達、収益化などの課題解決に向け、更に周辺事業者との連携を深めていきたい。
 FinTech分野は個人向け金融サービス(投資・住宅ローン等)など裾野分野への広がりが期待され、Mobility分野では宅配プラットフォームに加え、運送・保管機能強化など物流全体のデジタル化も可能性があろう。
 Agri/Food Tech分野は金融包摂(全ての人々が金融サービスにアクセスできる状態)として支払・クレジット・保険など地方でも活用できる仕組みも想定される。そのような周辺分野の企業との連携が活発化すれば、増資による資金調達および事業ラインの多様化による収益化が促進され、更なる市場の活性化が進むのではないか。
 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング・インドネシア現地法人社長 中島 猛)

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