史上最高値の日本株
日本株の上昇基調が続いている。日経平均株価は先月22日に、約34年振りとなるバブル期最高値3万8915円を突破。昨日にはついに4万円の大台に乗せた。マーケットではこの強気相場に乗って、4万5000円台を超えるとの予想も出始めている。
日経平均株価は長期トレンドで見れば2013—14年に底打ちしてから上昇基調に入っていたが、足下の力強い上昇が始まったのは今年1月に入ってからだ。加速度的な上昇を示すグラフの形状を指してホッケースティック・チャートと呼んだりするが、1月以降の日経平均のチャートを見るときれいなホッケースティック型で、同じ期間の他国の株式市場のチャートと見比べても、その鋭角な伸びが際立つ。
今回の株高がなぜ起こったのかについてはアナリストやエコノミストからも様々な見立てが出てきているが、この中で大勢を占めるのは、日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)改革の進展や、稼ぐ力の改善、良好な株主還元といった、いわゆる地に足のついた実力を背景にした株高との見方だ。これに足下の半導体関連需要の拡大トレンドが相俟って、ハイテク銘柄の上昇が日本株全体を押し上げる要因になっていると見る。この見方に立てば、日経平均の続伸はまだまだ持続性があると言うことになろう。
一方、これとは異なるやや悲観的見方は、円安やインフレの進展といったマクロ要因が株高をドライブしている側面が強いとの見立てだ。円安による日本企業の海外業績の円ベースでの改善、インフレによる名目ベースでの企業業績上乗せ、円安による株価自体の割安感、といった要因はどちらかと言うと一過性で、例えば日銀の政策変更によってマクロ環境が逆回転(円高・インフレ低下)に動き始めると、日本株にとって大きな押し下げ要因になると見る。過去1年間の各国株式市場の上昇率トップにはアルゼンチンやトルコといった、大幅な通貨安とインフレを経験した国(必ずしも実力ベースの企業成長力が高い訳ではない)が並ぶが、この悲観的見方は日本もこれらの国と多かれ少なかれ似たような構造にある、という見立てにもなる。
現実には今の日本株の状況はこれらの様々な要因が複合的に組み合わさって成り立っていると考えられるが、ここまでの急速な上昇はどこかではスローダウンすると見ておくべきであろう。世の中の多くの成長曲線は、それが企業業績であれ、技術や製品のサイクルであれ、ある程度長い期間をとるのであれば、多くの場合はホッケースティック型であるよりもS字型(成長が加速した後に緩やかになる)となるケースが多い。ただ実力ベースの株価上昇であれば、S字型で成長が緩やかになったとしても上昇トレンド自体は維持できるはずだ。
もっとも株価一般については成長曲線にも例外はある。各国の株式指数を20〜30年の超長期トレンドで見た場合、米国株はホッケースティック型に近い形状を実現できている。日本株がバブル最高値を回復するのに要した34年の間に、米国株(ダウ平均株価)は実に14倍程度にまで上昇した。米国株の時価総額の上位銘柄は入れ替わりも激しく、リーマンショックやコロナ期などの停滞はあっても、長い目で見れば成長の担い手を新たに作り出せている点が圧倒的な強みということになろう。
株高は運用利回りの改善を通じて個人消費の活性化などの資産効果をもたらす。日経平均が多少緩やかになっても、実力を伴った成長により上昇基調を維持できれば、日本経済の真の回復にとっても大きな後押しとなるはずだ。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)