米インフレの沈静化

 米国のインフレ率が明確な低下トレンドを見せている。米労働省より先週14日に発表された10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比3・2%と市場予想を下回り、また前月の3・7%からも大きく低下した。価格変動の大きい食品とエネルギーの価格を除いたコア・インフレ率は同4・0%とまだ高めの水準にあるが、こちらもトレンドとしては約半年間に渡って明確な低下傾向にある(物価の基調的な変化率を把握するにはむしろこのコア・インフレ率が使われることが多い)。
 先週は市場の方もこの発表に反応、高止まりしていたドルの長期金利(10年物米国債金利)は0・2%ほど低下、今後のドルの政策金利についても大半のアナリストが「追加利上げなし」との予想に傾いた。為替市場も反応して、程度にバラツキはあるが、対ドルで強含む通貨が相次いだ。ルピアもだいぶドル安・ルピア高方向に値を戻したので、急速に進んだルピア安に対し1カ月前には利上げで応じたインドネシア中銀もいったんは胸を撫で下ろしているであろう。
 ただ肝心の米連邦準備理事会(FRB)のスタンスは大きくは変わっていない。FRBの各高官からは、10月のCPI低下を歓迎しつつも、「進展は続いているがまだ道のりは長い」、「2%のインフレ目標の達成に向けて明確な軌道にあるとは必ずしも確信していない」といった慎重な物言いが相次ぐ。
 FRBが頑なにスタンスを変えないのには幾つか理由があるだろう。まず、米国の過去のインフレ低下局面を紐解くと、物価が沈静化するように見えた後にリバウンドしてインフレが再燃したケースが少なくない。特に1970年代にはいったん10%を超えるインフレを経験した後、物価が下がり切らずに2度目のピークを迎え、その後80年代に入ってからの景気後退への遠因ともなった。市場参加者は様々な指標のトレンドに着目してポジションをつくる傾向が強いが、今のFRBはインフレについては過去数カ月間続いたトレンドが、次の数ヶ月もそのまま続くとは限らないとの信念を強く持っているように見える。
 もう一つの理由は、雇用にあると考えられる。今月初めに発表された10月の米雇用統計は市場予想比で弱含む結果(雇用環境の悪化方向)となった。ただ失業率の3・9%にしても、平均月給の前月比伸び率0・2%にしても、水準としてはむしろ適正レンジに入ってきている。やや加熱していた労働需給の逼迫が解消され、緩やかに賃金上昇が続きながら雇用の伸びが続くといったような、ある意味で理想的な状況に至る余地が出てきているとも言えよう。
 FRBは「物価の安定」と「雇用の最大化」の2つを政策ミッションに掲げるが、雇用の方で心配がない限りは、物価の安定にフォーカスできる。今後、市場からは利下げを催促するような動きが強まるかもしれないが、FRBの方は、当面、雇用と物価を両立できるかもしれない絶好のチャンスを逃すことはないと考えられる。
 為替市場の方は、先週のCPI統計でドル安の流れができ始めたが、まだトレンドの大転換というところまでは至っていない。こちらの方もFRBのスタンス次第で、しばらくは様子見といったことになるのではないだろうか。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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