「産業のこめ」

 「鉄は産業のこめ」という表現をご存じの方も多いのではないか。鉄は身近な自動車や家電から、建物や道路、土木工事などあらゆる分野で使われる基礎資材である。日本の高度成長期には産業の発展に欠かせない素材として鉄が「産業のこめ」と呼ばれていた。
 インドネシアではさらなる製造業の発展やインフラ拡充が見込まれ、鉄鋼の需要は長期的に増加することが期待されている。鉄需要の将来性は人口1人当たりの鉄鋼消費量で判断される。2022年の1人当たり鉄鋼消費量は日本が450㌔、タイやベトナムが225㌔であるのに対し、インドネシアは60㌔にすぎず長期にわたり需要増が見込める有望市場である。
 インドネシア鉄鋼協会によると22年の鉄鋼消費総量は1660万トンと前年比7%増加。今年も5%の伸びを予想している。このような成長市場にインドネシア資本のみならず韓国、中国資本の製鉄会社が能力増強を発表している。
 これらの計画が全て実現すると国内需要を上回る能力が出現するが、品質面では依然、日本製の高品質の鉄鋼が必要とされる分野がある。例えば自動車に使われる鉄鋼である。自動車のボディーに使われる鉄鋼には以下3点が同時に必要だ。燃費向上に必要な軽量化のため「薄く」、安全性確保のため「強靭」であり、複雑なデザインを実現する高い加工性をもつ「しなやか」な鉄鋼である。
 このような高品質の鉄鋼は現在のインドネシアの製鉄会社では製造できず日本からの輸入が必要だ。自動車は内需、輸出ともに今後も成長が期待され、日本製鉄鋼の需要も増加が予想される。
 日本同等の品質が必要な一方、自動車業界やインドネシア政府からは現地調達化も求められている。JFEスチールはこの2つのニーズを両立するため、高品質素材を日本から輸入しインドネシアで最終加工をするインドネシア初の自動車用専用鋼板工場を16年に稼働させ2つのニーズにこたえてきた。また、JJC金属グループの企業とともに日本同等のサービスを提供するサプライチェーンを確立、需要産業の安定生産に貢献している。
 しかしながら、21年後半から政府の国産化推進政策のため自動車や建設機械用といったインドネシアでは生産できない品質の鉄鋼に対しても輸入の規制が続いている。安定したサプライチェーンが維持できる輸入枠が許可されず、製造業の輸入者は非定常な輸送や保税倉庫を利用し費用をかけ何とかサプライチェーンを維持している状態だ。また、本年1月以降、非製造業の商社に輸入枠が発給されず、少量の輸入鋼材を利用する需要家は自ら輸入を強いられ煩雑な輸入業務に忙殺されているようだ。効率的で安定した日本式サプライチェーンが毀損され自動車産業の競争力がそがれ、ひいてはインドネシア政府が力をいれている輸出に悪影響が出ることが懸念される。
 JJCでは昨年来、関係委員会と日本大使館や本省と協力し、関係省庁に改善を申し入れているが問題解消には至っていない。国産化推進はインドネシアにとって必要で、今まで多くの日系企業が工場進出等で貢献し今後も模索していくものだ。しかし現状では、インドネシア製造業が国際競争力をつけ発展していくには生産に必要な原材料が安定的に輸入できることが必須である。日本の官民で連携しインドネシア政府と情報交換をすすめこれからもサプライチェーン維持発展のために活動していきたい。
 米山智行 JFEスチールインドネシア社長(JJC金属グループ代表)

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