ルピア金利見通し

 ドルの利上げ局面がもう少し続きそうになってきている中、ルピアの金利は今後どう推移していくだろうか。先月、インドネシア中銀は月例の政策決定会合でルピアの政策金利を現行の5・75%を維持すると決めた。これで5カ月連続の据え置きとなる。
 インドネシアのインフレ率は今年に入ってピークアウトし、レバラン休暇のあった4月を挟んでも大きな上昇はなく、直近5月には4・0%とインドネシア中銀がターゲットとするレンジ(2〜4%)にタッチするところまで低下してきた。物価の安定という意味ではいったんの成果を出したと言えるだろうし、従って少なくても今は、わざわざ政策金利を引き上げる理由は無いといったところであろう。一方、インフレが収まってきているのであれば、むしろ景気のアクセルを踏むべきではとの観点から、市場では利下げを期待する声が少しずつ出てきている。ではその可能性はあるだろうか。
 過去10年の金融政策を振り返ってみると、ルピアの政策金利には2回の利下げ局面があった。一度目は2016年1月から同年末にかけての利下げ局面。特に、この期間の最初の利下げ決定(同月)がどのようなマクロ環境下で行われたかを見てみると、前の年に7%台まで達していたインフレ率が3%台に低下、ブレグジット等による世界景気の先行き不透明感からドルの利上げ観測が後退、これによりルピア為替が上昇(ルピア高)に転じたタイミングであった。二度目は19年7月以降の利下げ局面で、この時も局面の最初の段階では、国内ではインフレ率がジリジリと低下し3%を下回る水準にタッチし始めたことに加え、ドル金利も米中貿易関係の悪化等による景気鈍化を受けて利下げの可能性が出始めてきたタイミングだった。実際、米連邦準備理事会(FRB)は同年9月に利下げを実施、ルピア為替も強含みトレンドとなる。
 つまり、過去のルピア利下げ局面への移行のタイミングには、国内インフレ率の鈍化に加えて、ドル金利の方向性の変化(低下トレンド入り、またはその兆し)とルピア為替の上昇トレンド入りがあったことになる。ここで重要なのはドル金利の水準そのものよりも「方向性の変化」であって、それは、これこそがルピア為替のトレンド変化を引き起こしていたからだ。そして今足下の状況で、ドル金利に方向性の変化が出てきているかというと、否ということになろう。
 政策金利が物価と為替の動きに左右されるというのは、インドネシア中銀の金融政策が、「物価の安定」に加えて「通貨ルピアの安定」をその目的とすると規定されていることとも繋がる。ちなみに、先進国の中銀は米国のFRB、欧州中銀(ECB)、日銀のいずれも、物価の安定をそのマンデートとしているが、通貨価値(為替レート)の安定はそこには入っていない。これは為替レートが市場メカニズムによって決まるべきとの前提に立っていることに加えて、国内(域内)経済が十分な規模を有するが故に為替変動に左右される度合いが相対的に低いことにもよるであろう。
 インドネシアの過去の政策金利の決定過程を見ると、ルピア金利は(少なくともドルや円といった先進国通貨の金利と比べると)、ドル金利や為替のトレンドといった要因に左右される従属変数的な性格が強いのではないかと考えられる。そして、その前提に立てば、足下でドル金利の利上げが続いているうちは、ルピアの利下げはない、ということになるのではないだろうか。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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