非ドル化は進むか

 国をまたぐ資金決済に使う通貨といえば米ドルと相場が決まっているが、最近、このドル依存を見直す動きが拡がってきている。もちろん国際決済通貨としてのドルの立場が大きく脅かされるほどでは無いものの、世界経済における中国の台頭や、ロシアがウクライナ侵攻後に受けた経済制裁がドル経済圏から実質的に締め出される内容であったことも、西側諸国に属さない国々がドル依存を下げることを真剣に考え始めるきっかけとなっている。
 今年1月にはブラジルとアルゼンチンがドル依存を減らす目的で共通通貨の立ち上げを検討すると発表。ブラジルは先月、中国との間でも双方の自国通貨での貿易決済の促進で合意している。ASEAN諸国も、3月に行われた財務相・中銀総裁会議の主要議題は、加盟国の地場通貨建て決済促進により先進国通貨への依存をいかに下げるかであった。
 とはいっても現状のドルの立ち位置は、その規模や流動性の高さからしても圧倒的だ。国際決済銀行(BIS)のデータによると、世界の貿易取引の約半分はドル建てのインボイスとなっており、アジア・パシフィック地域で言うとこの比率は74%に引き上がる。為替市場もグローバルベースで実に約9割がドルとそれ以外の通貨のペアでの取引だ。ただ、全世界の中央銀行の外貨準備の通貨構成を見ると、1999年には71%だったドルのシェアが、昨年2022年には58%まで低下している(シェアを上げているのは人民元、豪ドル、カナダドルといった従来基準で言うとマイナー通貨)。政府レベルでのドル依存からの脱却の動きは少しずつ進んできていると言える。
 国際決済においてどの通貨を使うかは、通貨としての価値保全性や資金決済の利便性といった要素で決まってくるだろうが、特に資金決済については、現在のシステムは国際的に展開する銀行がお互いに口座を保有し合って、SWIFTというプラットフォーム上で資金決済の指図をすることで成り立っている。そしてここでは米国の銀行が本国に保有するドル建て口座を経由した取引が圧倒的に多い(米国による経済制裁の幾つかのアプローチは、この部分に制限をかけるため広範に影響を及ぼすことができる)。これは既にできあがった巨大なネットワーク・インフラのようなもので、ドル以外の通貨がこの立場に取って代わろうとすると膨大な投資とコストを要することになる。
 ただ一方で、昨今の地政学や経済力の変化を受けて、いくつかの国にとってはドルに依存したネットワークのリスクがより強く認識され、ある程度は投資やコストをかけてでもこのリスクを低減させておきたいというインセンティブが出てきているということだろう。これは最近グローバルなサプライチェーンへの影響にも現れていることだが、あるネットワークの「効率性」と「安定性」のバランスに、変化が生じているというようにも理解できる。
 ドルが現在のような役割を担うようになったのは、2度の大戦を経たのちにできあがったブレトンウッズ体制(ドルのみ金との交換比率を固定したうえで各国通貨とドルのレートを固定化)が源流と言われるが、長い歴史を振り返ると19世紀の大半は英国ポンドが世界の通貨として機能していた。時間軸を伸ばしてみると主役交代も有り得えないことでは無いかもしれない。ASEAN諸国も、政治的な立ち位置、増加トレンドにある域内貿易(全体の貿易量の4分の1を域内貿易が占める)を考えると、非ドル化の動きが進んでいく可能性もあるのではないだろうか。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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