人材育成が生産性左右

 インドネシア経済は、資源輸出に加え、新型コロナウイルスによる行動制限の解除により、民間消費も順調に回復し、好調に推移している。コロナで抑えられていた消費と投資が、一気に噴き出してきた感がある。MM2100工業団地(西ジャワ州ブカシ県)を開発、運営している当社 ブカシ・ファジャール社(BEFA)も、コロナ禍の2020〜21年は用地販売がなく、赤字決算を余儀なくされたが、22年は用地販売も回復、大幅な黒字転換となった。
 経済は堅調に推移しているものの、先行きは必ずしも明るいとは言えない。物価高と金利高の共存が懸念要因ではあるが、一方、産業界にとっての懸念は、20年に成立したオムニバス法により制定された最低賃金の決定フォーミュラの見直しである。現在労働省にて新たなファクターを追加する見直しが検討されており、JJC(ジャカルタ・ジャパンクラブ)労働委員会でもその動向に注目している。
 最近、日本でも急激な物価上昇に伴い、物価と賃金の関係についてよく議論されている。インドネシア経済の好循環を実現していくためには、物価の上昇を上回って、賃金が上昇していくことが重要であると考える。もちろん、持続的な賃金上昇を実現するためには、労働生産性の向上が不可欠であることは言うまでもない。
 労働生産性の向上にあたって、自動化や機械化も必要だが、まず、最も大事なのは、人材育成である。マニュアル通りにきちんと仕事をこなすという基本的な動作ができない労働者も多く、生産性の向上につながっていかないケースも数多く見てきた。
 20年よりJJC人材育成検討コミッティにも参加し、インドネシアの人材育成に取り組んできたことから、MM2100工業団地内に仲間と共に12年に設立したSMK Mitra Industri MM2100職業専門高校についてご紹介したい。
 当高校では、「リンク&マッチ」というコンセプトで、現場にて必要とされる人間を育成するという教育を行ってきた。5つの本質的価値(正直、責任感、規律、協調、思いやり)と6S(笑顔、挨拶、声がけ、礼儀正しく、マナーを守る、そして、頑張る)を教育の柱として、きちんとした態度、何事も最後まで諦めずにやり切る人間になることを目標に指導してきた。教育の時間と労力の半分以上を「態度」の教育に注いできた。すでに、現在の全校生徒は2400人、昨年卒業の8期生まで約3800人の卒業生を輩出し、そのうち就職を希望する70%は、卒業式を待たずに全員就職できている。そのほか、大学やポリテクに進学したり、日本やドイツに技能実習に行ったりしている。これらの教育を受けた卒業生が、MM2100の入居企業のみならず、世界で活躍してくれている。インドネシア教育省より、職業高校としてのモデル校に指定され、政府関係者も多く見学に来ていただいている。
 今後、毎年400〜500万人が労働市場に参入してくるインドネシアにおいて、雇用の機会を創出する取り組みは必須の課題だが、同時に、時間がかかっても、長期的な視野に立って人材育成に地道に取り組んでいくことが、将来のインドネシアの飛躍につながると確信している。
 小尾吉弘 ブカシ・ファジャール・インダストリアル・エステート社社長(JJC 労働委員会副委員長・人材育成検討コミッティ委員)

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