OPECプラスの減産

 先月のシリコンバレー・バンク破綻やクレディ・スイスの信用不安など一連の金融不安を受け、欧米市場を中心に一気に景気後退懸念が高まった。この流れのなかで資源価格もいったん下げ基調となったが、今月2日、石油輸出国機構(OPEC)とロシア、メキシコなど非加盟の産油国からなる「OPECプラス」が追加減産を発表、これは市場にとってもサプライズとなり、原油価格の急騰を招いた。今回の決定は最大の産油国サウジアラビアが5月から年末にかけて自主的に行う減産に他国が追随するかたちだが、昨年11月以降の減産と合算すると世界需要の約3%に相当する量の減産が続くことになるという。米政権は即座にこの決定に反発したが、インフレ抑制に手を焼いている他の多くの国々とっても、またひとつネガティブ要素が加わるってしまったということになる。
 OPECプラス側のロジックは、今後の安定供給や開発投資にかかるコストを賄うには原油価格の下支えが必要で、特に2020年にコロナの影響で原油価格が暴落して以降、時間をかけて徐々に価格を回復してきた中で、また同じような外的ショックによる値崩れはなんとしても防ぎたい、ということであろう。加えて、頼みの中国経済の需要回復が少なくとも今のところは世界的な景気後退を補うほど力強くなっていない、といった要因もあろう。
 また、これはよく報道されているように、米国による中東地域への安全保障上の関与が弱まるなかで、サウジが中国の仲介によりイランとの外交関係正常化に踏み切ったり、シリアとの対立関係の解消を模索するといった多面外交を積極化させ、米国依存を下げようとしていることも、今回のような打ち手を可能にさせた要因と言える。
 一方、中長期の時間軸で見ると、脱炭素化が進展していくなかで原油需要そのものは全体として減少傾向となることを考えると、産油国の間では「自分たちのバーゲニング・パワーは時間がたてばたつほど下がっていく」との認識が強まってきているのではと推測される。そうだとすると、なるべく影響力を持っているうちにそれを行使しておきたい、そうすることで場合によっては形勢を変えたい、といったような意思が働くことは自然なことであろう。
 行動経済学における代表的な理論にプロスペクト理論がある。これは不確実性下での人の行動について、利益が得られると予想される局面ではその利益をより確実なものにする安全な選択肢を選びやすいのに対し、損失が予想される局面ではそれを回避するために敢えてリスクの高い選択肢を取りやすくなる、との傾向をモデル化したものだ。これは、ある額の利得を得るときの喜びに比べて、同じ額の損失を被る悲しみの程度がはるかに高くなる、という人の認知傾向に起因する。
 このような損失回避のためのリスクテイク傾向が、どのくらい産油国側のスタンスに反映されてくるかはまだわからない。ただ、これから先、脱炭素化が進展していくにつれて、こういった国々が残された影響力をどう行使していくのかといった視点で原油市場を見ていくことも重要なのではないかと思う。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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