シェアリングエコノミー

 昨年来、好調な輸出により貿易黒字を享受しているインドネシア経済だが、輸出のパフォーマンスは業種によってかなり濃淡が出てきている。好調な資源関連に対し、逆風に揉まれているのが繊維産業だ。昨年後半ごろから欧米経済のインフレと消費減退を受け大手ファッションブランド、スポーツブランドからの発注減少が顕著となり、業界全体では昨年の失業者が11万人を超えたとの統計も出た。雇用吸収力が期待される労働集約産業としては相当なネガティブ・インパクトということになろう。
 政府も国内業者の国内向け販売促進を後押しすべく、先月、古着輸入規制の厳格適用を発表した。これによりECサイトでの取引も含めて輸入古着の取引が大幅に制限される見通しだ。業界団体もインドネシアの古着の違法輸入は年間10兆ルピア近くに登るとして、これを国産に置き換えるだけで大幅な雇用創出が可能との推計を示す。
 正直なところこのニュース自体は個人的には気にも留めていなかったのだが、先週、職場で雑談していたところ、ある女性の若手メンバーから、日本の古着や中古のアクセサリーを頻繁に買っていて自分のファッションのレパートリーの中ではかなり大事だったので今後が心配だとの話を聞き、ハッとなった。ファッションのような個人嗜好の要素が強い財は、ボリュームで捉えて規制をかけると、消費者にとっては選択肢が失われる結果となるということもあるだろう。
 また彼女の話を聞いていると、価格の安さやモノを捨てずに済むといった要素が、知らない他人の所有物を譲り受けるという抵抗感を上回っているであろうことも感じた。大量生産・大量消費型の経済からシェアリングエコノミーへのシフトを牽引していくのは彼女のような世代ということになるだろうか。
 シェアリングエコノミーは、UberのようなライドシェアやAirbnbのような宿泊マーケットプレイスといったビジネスが先駆けとなって出てきたコンセプトだが、基本的にはデジタルのプラットフォームを使うことで、(レビューシステムや資金決済のセキュリティなどを充実させることにより)知らない者同士の取引のハードルを引き下げつつ双方の取引選択肢を大幅に増やす、また利用率の低い財(資産、製品、人材など)の稼働率を高めることで経済的にも環境面でも効率性を高める、といったようなところにその本質がある。
 欧米諸国ではこのアプローチで追加の収入源を確保したりモノやサービスの購入費用を下げたりということがかなり進んできていて、コロナ期の働き方の変化も相俟って、そのトレンドが加速化しているようだ。最近では、ギグワーカーと呼ばれるネット上で単発の仕事を請け負う働き方が、むしろ正規雇用ポストの人手不足を引き起こしインフレの一因となっているとの見方もある。
 インドネシアを含めアジア各国でもマーケットプレイス型の新興ビジネスが増えてきているが、これまでのライドシェアなどのサービス浸透度の速さを考えると、この流れが加速化していく可能性が高いのではと思う。若い世代を中心にデジタル自体への抵抗感はかなり低くなっているので、ネット上での他人との取引を安心させられる要素が拡充されていけば、特に都市部ではいくつかの領域で既存ビジネスからの置き換えが一気に進むことも考えられよう。
 今回の古着輸入規制のようなある意味従来型の輸入代替政策がどういった効果や影響をもたらすのかはわからないが、統計には出てこないような領域で進んでいる変化にも目を凝らしておきたいと思う。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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