リーダーシップ・スタイル

 年末年始を挟んで、幾つかのメディアやリサーチ機関が発表した2023年の政治・経済見通しに目を通した。やはり今年はロシアと中国に関連する話題が目立ったが、特に両国の動向を大きなリスク・ファクターとして採り上げる向きが多かったと思う。地政学分析を専門とするユーラシア・グループのトップ・リスク・レポートは、「ならず者国家」としてのロシアと、習近平への権力集中が進む中国を、それぞれ今年のトップ1位、2位のリスクとして挙げている。そしてこの両方に共通するリスクの源泉が、「少数の個人が桁外れに大きな力を持ち、透明性のない中で限られた情報をもとに地政学的に重大な決定を下していること」にあると指摘する。
 権力が過度に集中した体制の下では、意思決定の速さや組織的な執行力によって、時にある部分においては目覚ましい進展を成し遂げることがあるが、一方で、判断そのものを間違えたり、その後の修正が効きにくくなったりするリスクが大きいとも言えよう。そして、これらの傾向はマクロ・レベルの政治の世界にとどまらず、我々が身を置くミクロ・レベルの組織運営においても同じようにリスク・ファクターとなる局面が増えてきているのではと思う。多様な見方や異論を受け容れる余地が狭まることで重要な局面での判断を見誤るリスクや、いったん決めたこととの一貫性に過度にコミットすることにより軌道修正が遅れをとるリスクは、リーダーシップ・ポジションにある人であれば誰しもが認識するリスクであろう。そしてこれらのリスクは、外部環境の変化や不透明性が高まると、それに並行して高まっていくと言える。
 近年、組織行動論やリーダーシップ研究においても、こういったリスクに対する認識が高まり、主に心理学的アプローチからこれを掘り下げる動きが進んできている。例えば、チームマネジメントにおいて「心理的安全性」(psychological safety)を重視する考え方は、数年前にグーグルがこれを組織運営に活かす取り組みを始めたことで有名になったが、チーム内で安心感を醸成する(上司も含め対人関係上のリスクを下げる)ことが、異論も含め多様な意見を汲み上げるカギとなるとの考え方だ。
 また先の軌道修正が遅れるリスクの観点では、最初にとった行動に過度なコミットメントを感じてしまう心理バイアス(「Irrational escalation of commitment」。日本語では「立場固定」という訳がついている)に着目して、その元となる感情や認知傾向(印象管理、メンツ、埋没費用など)への自覚を促すアプローチが拡がってきている。これらは最近のリーダーシップ教育の中でもよく採用されるようになってきた。
 こういった動きが出てきたのは、やはり世の中の変化のスピードや程度が格段に高まってきたことが大きい。不確実性が高く予測可能性が低い状況下では、組織の大小を問わず、個人レベルで蓄積してきた経験値のみに頼った判断では道を踏み外すリスクも高くなる。最近のダイバーシティやインクルージョンを重視する流れもこの文脈で理解することができよう。
 また、これらのアプローチはなにもリスクの観点からのみ注目されている訳ではない。むしろイノベーションを産み出す上で必要な組織カルチャーという観点で、これらの考え方を積極的に取り入れようとする動きも増えている。卯年の今年、それぞれの組織で大きな飛躍を目指すうえでも、改めてリーダーシップ・スタイルを振り返る意味があるのではと感じている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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