中銀の現状認識

 先週、インドネシア中銀が政策金利の引き上げを発表した。引き上げ幅は0・5%で、前回、前々回に続いて3カ月連続で同じ引き上げ幅となった。これで政策金利は5・25%となる。今回は市場参加者の多くが同じ引き上げ幅を予想していたので(ブルームバーグの事前調査ではエコノミスト33人中22人が0・5%の引き上げを予想)、ほぼサプライズはなかったと言える。
 インドネシア・ルピアの政策金利は中銀が毎月実施する政策決定会合で決定されるが、その決定に際しては、毎回、中銀からの声明文が発表される。主には政策金利決定に至った背景や理由が説明される訳だが、そこにはマクロ経済や市場についての中銀としての現状認識が示されていて、その内容が毎月どのように変化しているか(または変化していないのか)を見ることは、インドネシア経済の直近の状況を理解する手助けとなる。しかもこの声明文は毎回ほぼ同じフォーマットで作成されているので、月毎の声明文をサイド・バイ・サイドで比較するのにも適している。
 では今月の声明文が先月10月分と比べて何が変わっていたのか、順番に見ていくこととしよう。
 まずは為替市場について、10月に「ルピアの安定が維持されている」と記載されていたものが、11月は「ドル高とグローバルの金融市場の不確実性がルピアの売り圧力を強めた」との表現となった。先月後半よりルピア為替の下落トレンドが出てきていたが(今月には2年7カ月ぶりとなる1ドル=15700ルピア台)、これに対して明確なかたちで懸念を示したと言える。
 次にインフレ率だが、10月に「当初想定より低い」との表現があったところ、11月はこれを改め「インフレ期待は高止まりしている」との表現になった。直近のインフレ率が懸念すべき水準にあるかというとそこまでではないであろう。10月時点の消費者物価指数(いわゆるインフレ率)は5・71%と前月から若干減速、コア・インフレ率は同3・31%とまだ中銀のインフレターゲット(2〜4%)の範囲内にある。今回の声明文でも足下のインフレ率は当初想定よりも低く推移していることが触れられているが、ここでのポイントは「インフレ期待」という表現を使って、将来的なインフレ進行に対するリスクを喚起していることだろう。
 そしてもう一点、国内経済について。10月の声明でも良好な経常収支とともにコロナ後の経済回復が順調に進んでいるとの認識が示されていたが、今回11月分では、継続して同じ認識であるとした上で、インドネシア国内経済が「外部環境への抵抗力を強めている」との表現が追加された。これは直近の第3四半期の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比5・72%と良好な水準(前四半期から0・27ポイント改善)であったことが大きいだろう。声明文では、今の経済回復が主要業種で幅広く広がっていることに加え、地域的にも満遍なく進んでいるとの認識を示している(成長をリードする地域として筆頭に挙げられているのはスラウェシ・マルク・パプア地域)。
 以上、この1カ月間で中銀の認識がどのように更新されたのかを要約するならば、「ルピア為替やインフレの動向にはより用心深くなった一方、経済全体についてはより強気モードにシフト」といったところだろうか。政策金利については同じ対応が続いているが、その背景となる現状認識には変化が進んでいると見ておく必要があろう。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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