所得格差と中間層

 渡航制限の緩和が進んだこともあり、インドネシアにも海外からの渡航者が増えてきているようだ。久々にまたは初めてジャカルタを訪れる出張者を案内することが増えている駐在員の方も多いのではないだろうか。巨大なショッピングモールや真新しい地下鉄の駅がある一方で、路地裏を通ると昔ながらの屋台やオートバイ整備店が所狭しと並ぶというお馴染みのコントラストも、多くの来訪者にとって印象に残るジャカルタならではの風景だろう。このコントラストは、この国を訪れる人に、所得格差や中間層について考えさせるに十分なきっかけとなるのではないだろうか。実際のところ所得格差の是正はこの国の政治にとっての重要な争点であり続けているし(例えば2014年のジョコウィ政権の誕生は所得再分配政策への支持が大きく寄与した)、一方で中間層がどのくらいのペースで拡大していくかはビジネスに関わる人にとって共通の関心事だ。
 一国の所得格差を測るうえで伝統的に使われている指標がジニ係数だ。所得階層の形状が見えてこないなどの難点はあるものの、手っ取り早く格差の水準を知ることができるため世界中で幅広く使われている。0から1の間の指数で示され、数値が高い方が格差が大きい。インドネシアもジニ係数を開発目標の指標として採用している。ちなみに直近のデータは今年3月までの半年間で、同係数は0・38だった。インドネシアのジニ係数は長らく0・3程度の水準にあったが、2000年代の民主化の時代から上昇傾向(格差の上昇)となり、2010年前後には0・4を超える。2016年ごろから緩やかに低下してきたが、足下は0・38であるから、ジョコウィ政権下で目覚ましい格差改善があったかと言うとなかなかそうは言い難い。
 他国との比較はどうだろうか。昨年末に発表された「World Inequality Report 2022」(フランス人経済学者トマ・ピケティ氏らが設立した研究機関によるレポート)はジニ係数以外の切り口で所得格差の国際比較をしているが、インドネシアは人口の上位10%が占める所得の割合が約60%、逆に下位50%が占める所得割合はわずか5%台と、国際的にも格差が最も大きいグループに分類されている。経済発展に伴って分厚い中間層が形成され所得格差も縮小していく、というようなサクセス・ストーリーにはまだなりきれていない、といったところだろうか。
 多くの企業がこの国でのビジネスを展開するにあたって、中間層の成長をある意味アテにしてきたことを考えると、やや都合の悪いファクトということかもしれない。ただビジネスの世界で戦略を練ったり意思決定をしたりといったレベルでは、少し違う解像度で物事を捉える必要もあるだろう。人口の年齢構成や都市部への人口流入、そしてターゲットとする製品やサービスの浸透度など様々な要素を見ていけば、「中間層」というハイレベルな目線よりも、実態に則した市場の姿を捉えることができるだろうし、そのようにして捉えた姿の方がより意味があるはずだ。
 この国にいて感じられるのは、格差のコントラストばかりではない。若い人口、得も言われぬ活気、変化への対応の速さ、(時に根拠のないとも感じられる)前向き思考などなど、魅力的な成長ストーリーを描くのに十分な要素がそろっている。ビジネスにおいて魅力的な成長ストーリーは資源配分や投資のコミットメントに必要不可欠だろうし、やや自己成就的な思考かもしれないが、それらを通じてこそ成長を興していくことが可能になってくるのではないか。その意味で、インドネシアに訪れる人たちに伝えるべきメッセージをよく意識していきたいと思う。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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