経済発展と健康志向

 「経済発展と健康志向の高まりは並行して進む」ことを実感した22年間だった。赴任は2000年5月。インドネシア駐在の希望が叶い、ポカリスエットの営業責任者として大塚製薬の現地法人に着任した。
 その約20年前を振り返ると、この年の国内総生産(GDP)が1650億ドル。現在の7分の1の水準だった。当時のインドネシアで人気が高かった国民的スポーツといえば、バトミントンとサッカーだった。バトミントンは友だちや近所の人たちと楽しむのが主流。サッカー観戦は圧倒的に男性が多かった。
 健康や栄養を考える人が少なく、階段を使わずどこに行くにも車かバイク。とにかく美味しく、たくさん食べることがよしとされていた。そこには「ごはん(米)を食べないと食事にならない」という考え方があった。運動もしたがらず、栄養バランスに無頓着な人が多いというのがそのころの印象だった。
 とはいえ、この10年くらいでそれも大きく変わった。健康を維持・増進する「運動と栄養」と向き合う人が増えている。
 その象徴と言えるのが、コロナ禍前は1日4万人を集めたスディルマン通りの歩行者天国(カーフリーデー)。日系企業が当地に参入してきた2012年に始まり、経済発展とともに多くのインドネシア人がスポーツに励むようになった。
 最初はスポーツ好きか、富裕層を中心とした方の参加が主だったが、今では中間所得者層のスポーツ愛好家が増え、女性を含む多くの方々が参加するイベントも開催されるようになった。関連消費も拡大するなど、スポーツや健康増進に関わる市場は一大産業に発展している。
 スポーツの種目も、すそ野を広げている。富裕層は高級ロードバイクにブティックジムでワークアウト。中間所得者層のジム通いも珍しくなく、家の周辺をウォーキングするような軽い運動をする方も増えた。スディルマン経済特区(SCBD)の辺りは18年アジア大会をきっかけにビジネス街として一変した。大量高速鉄道(MRT)が日本の援助で開通し、穴ボコだらけで歩くのも難しかった歩道がスムーズに走れるようになり、ブンカルノ競技場(GBK)の施設が見違えるように整備され、経済発展がスポーツ・健康環境の改善を後押ししていることが目に見えてわかるようになった。
 加えて近年はSNSの浸透で健康情報が多くの人々に早く知れ渡るようになり、体重管理のため炭水化物抜きダイエットをする人も出てきてており、その変わりように驚かされる。
 コロナ禍では、肥満が原因の糖尿病や高血圧などの合併症で亡くなる身近の方もおり、その警戒心からか今年のはじめから運動や食事に気をつける健康志向の方が増加しているようにも思われる。特に女性のスポーツ愛好家が増えていることは市場のポテンシャルを感じる出来事でもある。健康ブームが高まりを見せ健康産業は今後も発展し、次は性別を超えた美容産業がさらに発展しそうだ。インドネシアのポテンシャルは高く、自虐的な「リスク管理、コンプライアンス、個人情報管理、ガバナンス」に一生懸命な日本から見ると羨ましい限りだ。
 アメルタインダ大塚社長坂東義弘(JJC農林水産グループ代表理事)

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