燃料価格引き上げ

 ジョコウィ政権が補助金対象の燃料価格引き上げに踏み切った。今月3日から実施された新価格は約30%の値上げとなり(比較的よく使われるガソリンのタイプであるプルタライトの小売価格はリッター当たり7650ルピアから10000ルピアに上昇)、関連する財・サービスへの波及も含め、今後のインフレ率上昇につながることは必至であろう。今回の決定は来年度予算編成のタイミングに合わせてとの事情もあったろうが、世界経済が変調をきたしつつある今の状況下で、敢えて物価高を引き起こす不人気な政策を決断したことは、今のインドネシアにそれを許す環境があることを示唆している。
 まずジョコウィ政権が、残りの任期が約2年となる中で、支持率に左右されず自らの信条に沿ったレガシーを残そうとし始めていること。そして、マクロ経済の状態も、比較的堅調な個人消費の回復と、経常黒字に支えられたルピア為替レートの安定を含めて、ある程度はインフレ耐性があると見込まれること。これらを踏まえると、かつて燃料補助金の撤廃がこの国の政治・経済危機の引き金となった1998年当時とはまったく状況が異なると言えよう。
 補助金の目的は景気刺激であったり低所得者層の支援だったりする。ただし、これまでの燃料補助金はややその目的があいまいな面もあり、もし後者を目的とするのであれば、(特定財の価格コントロールは所得水準に関わらず便益を与えてしまうため)これまでと異なるアプローチが必要であると言われてきた。また、石油価格の高止まりを前提とすれば、大規模な補助金政策を続けることによるマクロ経済的な非効率性(デッド・ウェイト・ロス)も無視し得ない。ジョコウィ政権の優先課題であるインフラ整備への予算配分という観点からも、方向性としては納得しうる政策が示されたのではないだろうか。
 一方で、今年末から来年初にかけての物価の推移はよく見ておくべきであろう。足下のコア・インフレ率は3%水準で、これが今後5%台に乗せてくることは恐らく想定の範囲内であるものの、もし仮に7~9%といったような水準に届くとなると、政権交代前に次の一手を打つ必要が出てきてしまう(そしてその時のインドネシアの経済情勢は今とは違う姿になっているはずである)。欧米では10%近いインフレ率が政権支持率の低下につながる展開になっているし、歴史的に通貨安とインフレがポピュリズム政治を招いてきた南米諸国の例を見ても、インフレの影響が政治・社会の領域に及んでくるリスクは看過できない。
 今のインドネシアの政治は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の中でも、過度なポピュリズムを排しながら民主主義を維持しているという点において傑出する存在になりつつあるが、インフレ率がどこまで上昇していくかは、再来年の大統領選を含めた今後の政治情勢を占う上で、ひとつの重要なファクターとなるのではないかと考えている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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