脱炭素化の実現に向けて
近年、カーボンニュートラルという言葉をよく耳にすると思う。簡単に言うと、地球温暖化対策として二酸化炭素など温暖化効果ガスの排出を抑え、植物などによる吸収を増やし、実質的に温暖化効果ガスの排出量をゼロにすることで、これを目指す取り組みを脱炭素化とも呼ぶ。
気候変動は地球規模の課題であり、2015年に採択されたパリ協定に基づき世界各国で取り組みが進められているが、実現には未だ多くの課題がある。その一つは、化石燃料を使用して成長した先進国と、これから発展しようとしている開発途上国を同列に扱ってよいのかという点だろう。インドネシアが経済成長を進めつつ、化石燃料に頼らず脱炭素化を進めるには多額の費用と最新技術が必要になる。途上国側としては当然、先進国が資金面・技術面で全面支援することが必要という意見である。
また、カーボンニュートラルへの移行、いわゆるエナジートランジションは一朝一夕にできるものではなく、国・地域によって最適なトランジションを考える必要がある。当然、エネルギー安保も重要な観点だ。
例えば欧米では太陽光や風力の活用を中心とした脱炭素化が進められているが、雨季乾季があり、熱帯雨林に覆われ、かつ赤道付近で風況の良くないインドネシアでは、太陽光や風力を主力電源とするのは現時点では困難と思う。
現実的には、豊富な国産資源である石炭をできるだけクリーンな形で継続利用しながら、二酸化炭素排出量の少ない国産天然ガスの利用を拡大しつつ、地熱・水力なども含めた再生可能エネルギー導入を進め、長期的には水素・アンモニア利用などを拡大していく形で、エナジートランジションを進めていく必要がある。
インドネシアの脱炭素化で日本が果たせる役割は大きい。両国は地理的条件やエネルギー構成など共通点が多く、日本の技術はインドネシアのカーボンニュートラル実現に貢献できるはずだ。実際、すでに多くの日本企業が太陽光発電、水力発電、地熱発電、アンモニアなどの分野に加え、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)、自動車の電動化、化石燃料の脱炭素化、森林セクターなど幅広く脱炭素化への協力事業に取り組んでいる。
また日本政府機関も、脱炭素技術の調査・実証事業実施、脱炭素化ロードマップ作成支援、ファイナンス支援、セミナー・研修実施など幅広い分野で協力を進めている。ジャカルタ・ジャパンクラブ(JJC)では、4月からカーボンニュートラルタスクフォースを立ち上げ、脱炭素化を上手く進めるための政府への政策提言を始めている。また日本政府としても、アジアの持続的な経済成長とカーボンニュートラルの同時達成に向けた支援策「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」を準備し、取り組みを進めている。
インドネシアは日本にとって重要なエネルギー供給国であり、大切な親日国でもある。日本が資金・技術面で支援し、この国の経済成長と脱炭素化を両立させることは両国にとって重要だ。また、アジアという地域に適したエナジートランジションのモデルを構築し、地球温暖化防止を進めることは意義のあることで、引き続き官民挙げて取り組みを進め、アジア型エナジートランジションを進め、カーボンニュートラル実現、地球温暖化防止を目指していきたい。
インドネシア三菱重工業社長 小林 信二(JJC機械グループ代表理事)