投資の量と質
今年11月に予定される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を前にジョコウィ政権の外交活動が活発化している。先月の大統領自身による訪日は、主要経済閣僚を引き連れてのもので、日系企業経営陣との面談アレンジを含め、改めて日本からの投資に強い期待を示すかたちとなった。
日本からインドネシアへの直接投資は、近年そのプレゼンスが相対的に低下していることを指摘する声が出てきている。投資調整庁(BKPM)のデータによると、日本からの投資額は2018年まではシンガポール(他国からの間接投資も含まれると推測される)とほぼ常にトップ争いを繰り返していたが、直近21年にはシンガポール、香港、中国、米国に次ぐ5位にまで低下した。ただし、直接投資額の年単位の推移は大半の国のケースで大口案件の有無などにより相応に上下するのが普通であるし、また他国との比較をいったん横に置いてみると、日本からインドネシアへの直接投資額は中長期の時間軸では確実に水準が引き上がってきている。業種別に見ても、従来主流だった自動車、電機、エネルギーといった分野に加え、小売、消費財、不動産、金融、ITといった分野での投資も増えてきており、投資分野の多様化が進んでいると評価できよう。
企業が自国以外でビジネスを展開する上で求められる基本的な戦略を「3つのA」で示すフレームワーク(パンカジュ・ゲマワット)がある。自国と進出国との間にある差異(人件費や原料へのアクセス等)を活かして競争力を確保するアービトラージ、自社の製品・サービスを進出国の消費者選好などに適応させていくアダプテーション、そして規模や事業範囲の拡大で利益率を高めるアグリゲーションだ。どの企業もこれらのいずれか、またはその組み合わせにより進出国でのビジネスを展開する。そして当然ながらそれぞれの戦略に求められるスキルや経験も異なってくる。
近年の日本企業によるインドネシアへの投資は、過去に比べるとアダプテーションやアグリゲーションに関わるものが圧倒的に増えてきていると言えよう。かつこの2つのAの両方を同時に追求する(ローカルマーケットへの適応と事業規模・領域の拡大)という難易度の高い方向性を目指す企業も少なくない。そして、これらの戦略で成功した投資は、結果として乗数的な波及効果を産み出すことにもなる。それは、その企業自身にとっての財務的なリターンやブランド浸透といったことにとどまらず、雇用創出や技術移転といった効果はもとより、新たなビジネス経験値の創出やその国の産業自体の競争力強化といったような、国の経済全体にとっても真に価値のある波及効果ではないかと思う。直接投資はその額から国や企業のプレゼンスを示す尺度になることが多いが、日本とインドネシアの長年にわたる強い経済的な結びつきを考えれば、直接投資の質的な部分にももっとスポットライトを当てていくことができるようにしていきたいと思う。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)