ネットバンキングの技術進歩

 最終稿で何を取り上げるか迷ったが、最後は本業に戻って、金融の技術進歩について書きたい。
 BI—FASTという仕組みを聞かれたことはあるだろうか。これは今年から新しく始まったインドネシア銀行間のリアルタイム決済サービスで、加盟銀行は順次増えつつある。例えば、最近のネットバンキングの画面では、送金時に相手口座番号を入力する必要はなく、相手の電話番号だけで他行の口座にリアルタイムに送金が出来る。これは、インドネシアだけでなく、シンガポールなどの他国でも数年前から徐々に始まっている金融サービスである。
 ネットバンキングは、仮想通貨ではないが、現金ではなく帳簿データのみを動かすという点で、バーチャル・サービスになる。ただ、便利になりつつあるネットバンキングも、最新のIT技術をまだ取り入れていない。引き続き、各銀行の帳簿を中銀のホストで管理して、送金のやり取りを相殺する仕組みを継続しているからである。この形だと、どうしてもホスト・コンピューターのバックアップやセキュリティ確保を幾重にも行う必要があり、コストはかさむ。
 一方、以前の本稿で触れた「ブロックチェーン」の技術であれば、世界に無数に存在する分散型の帳簿を同時にデータ更新できるので、データ紛失や偽造のリスクが究極的には無くなる。誰かの帳簿データが無くなっても、無数に存在する他の帳簿からデータの復元は容易だし、世界同時にすべての帳簿を書き換える偽造も難しい。要は、中央ホストでデータを厳重管理する必要がなくなるので、管理リスクやコストが大幅に減少するとみられている。
 この技術を活用したネットバンキングは、やがて仮想通貨の世界とも結びついて、新しい消費形態と親和性の高いツールとして活用が広がってくる。さらに、このサービスは民間の銀行だけではなく、インドネシアを含む各国の中銀でもデジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)という形で開発が進められている。遠い将来の話ではなく、今後1~2年以内に大きくこの分野の技術が進んで、現実とバーチャルと両方の世界で、例えば「メタバース(仮想空間)上で土地を購入する」等のさまざまな消費形態や新金融サービスとして実現していく可能性が高い。
 翻って日本では、電話番号で他行の相手先に振込むサービスは、まだ実現されていない。また、税務関連書類も、今年から電子データ保存となる予定だったが、2023年末までは「紙」のデータ保存を認める猶予期間が設けられた。金融インフラ面でも、徐々に日本の国内サービスの遅れが目立ってきており、危機感を持っている。世界の金融市場の動きは日進月歩で、遅れないようにしたい。
◆ ◆ ◆
 私事ながらシンガポールへ異動となり、寄稿は今回が最後となります。2019年から3年余りにわたり本コラムを担当し、皆さまから多数のアイディアや感想を頂きました。この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。来週は月に一度のジャカルタ・ジャパンクラブ(JJC)理事による輪番寄稿、次々回の6月からは、後任の中島和重にバトンタッチします。今後のインドネシア経済の発展と現地の皆さまのご健勝を心より祈念申し上げます。大変ありがとうございました。(三菱UFJ銀行 江島大輔)

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