非連続の変化受け入れを 手探りの「ニューノーマル」

 最近、「ニューノーマル」という言葉がトレンドになっている。当地でも国家公務員に、ニューノーマル対応の勤務体制が導入された。元来、この言葉はリーマンショックに伴う金融危機を経て、米国経済がもう以前のように元に戻らないという概念から、大手資産運用会社ピムコの元CEOモハメド・エラリアン氏が提唱したものである。それは景気循環論では測ることの出来ない新時代の到来を意味していた。その十数年後、新型コロナウィルス(COVID―19)の感染拡大と各国ロックダウンにより、再びこの言葉が浮上したが、今回の変遷を更に「ニューノーマル2・0」とし、より一層グローバル経済のあり方を変え、リスク回避や回復性に重点を置いた企業戦略をとらざるを得ない、と同氏は説いている。
 依然としてCOVID―19感染対応が必要な中で、何が新しいノーマルになるのかは定かでないが、各業界においてはコロナ・ショック後を想定して戦略を変える動きが出てきている。我々、銀行業界について言うと①COVID―19への衛生規律を意識した店舗運営や顧客活動の見直し、②デジタルバンキングなどに代表される非対面取引の充実化、が主なものである。
 さて、金融マーケット指標に目を向けると、こちらも徐々に新しい段階に移行しつつある。巷間では、「COVID―19後の経済は、V字型で急に戻ることはなく、停滞からゆっくりとした回復基調を歩み、COVID―19と暫く付き合いながら徐々に成長軌道に乗っていく」というエコノミスト意見が優勢である。おおむね賛成であるが、足元の経済統計では、その見立てから外れるものも出ている。例えば、今月初に発表された米国雇用統計である。ニュースなどで既にご存知の方も多いと思うが、5月の非農業部門雇用者数は、市場予想が前月比750万人減少であったのに対し、結果は同250万人増加の回復を示し、個人的にも驚いた。4月は2050万人減少と、統計開始以来の最大の落ち込みだったが、実はこの4月解雇の大半は一時的解雇で、米国経済の再開に伴い再び雇用されたものと考えられる。予想との乖離については、この週に発表された新規失業保険申請件数も影響していた。同件数が依然として高い失業状況を示したため、雇用は依然として悪いとエコノミスト達が考えていたことや、予測モデルが米政府の給与保証プログラムなどを考慮しきれていなかった点などが指摘されている。いずれにせよ、大きなショックを受けた渦中にある状況では、過去の経験の延長線上だけでは先行きは読めない、という点を改めて認識させられた。
 この米国雇用指標のサプライズにより、直後の米国金融市場はリスクオンの様相を呈し、米国株は急騰し、為替市場はドル円が110円に迫る水準までドル買いが進み、債券市場では米金利が上昇した。インドネシア市場でも追随した動きがあり、国内為替市場ではドル安ルピア高が進み、6月2週目にかけて1万3千800台まで戻り、ここ3カ月でのルピア安進行分の大半を、一旦は取り戻した格好である。ただ、これも再び第2波警戒の中で、足元は少しづつルピア安に振れており、冒頭のニューノーマルと同様、市場も何が新たな常態なのかを手探りで探している。
 COVID―19の影響から逸早く脱しつつある国々(中国、タイ、ベトナム、豪州など)の新たな日常への動きを参考にしつつ、インドネシアも前例に捉われない非連続な変化を受け入れていく必要がある。(三菱UFJ銀行執行役員ジャカルタ支店長)

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