【9.30事件特集】日本政府、政権継続を予測 親スカルノから スハルト支援へ 倉沢・慶応大名誉教授

 世界の共産化を恐れて容共路線のスカルノ政権転覆を望んでいた西側諸国の中でも、9・30事件に対する当初の日本の見方は違った。日本は西側諸国の中で圧倒的にスカルノ氏に近く、権益を守りたかったという意図が見える。来年、同事件関連の本を出版するインドネシア研究者の倉沢愛子・慶応大名誉教授に聞いた。

 倉沢氏の話 当時、米国をはじめ西側諸国は共産党(PKI)が地方で大地主を認めず、土地の接収・配分を強制していたことを深刻に捉えていた。元宗主国・オランダは企業を接収され、米国や英国の石油メジャーが持つ油田も標的に上がっており、西側諸国にとってスカルノ氏のナショナリズムの強い経済政策は都合が悪かった。
 容共的なスカルノ氏を打倒しなければならないと考えていた米国は、事件発生直後の10月5日にはスカルノ氏失脚をにらんでスハルト側支援を検討、14日までに通信機器を供与している。
 一方、10月8日に斎藤鎮男大使(当時)は「大勢は秩序回復の方向に進んでおり、軍は反乱軍になることを防ぐために直接大統領打倒運動に出ることは控える」とスカルノ政権は続くとの見方を示している。さらにスカルノ氏の無事が確認された時、西側諸国で日本だけが祝福のメッセージを送っている。
 日本もPKIの存在は恐れていたが、戦後賠償によるインフラ整備やスカルノ氏の第3夫人が日本人のデヴィ夫人だったこともあり、政権と深く繋がっていた。他の西側諸国と違い、日本はスカルノ氏のインドネシアに大きな権益があり、同氏を共産主義者とは見ていなかった。そのため、事件直後は政権継続を願っていた。
 ただ11月ごろから日本の対応は変化する。斎藤大使によると、スカルノ氏が斎藤大使と非公式に会談した際、共産党を擁護した。これで斎藤大使は個人的に政治家としてのスカルノ氏を見限った。日本政府も11月18日には、インドネシアと西側諸国との対立を緩和するとしてスハルト側支援の必要性を指摘している。 
 事件後、スハルト新政権は政策を180度転換、対外投資を受け入れるようになり、高度経済成長の後期にあった日本企業はインドネシアへ多くの投資をするようになる。結果的には当初の心配とは裏腹に、政権交代は日本経済へ好影響をもたらした。 (堀之内健史)
            
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