【変わるタナアバン】(上) 元露天商、路上への郷愁も

 「露天商の総本山」―。ジャカルタ中心部のタナアバンに劇的な変化が訪れている。かつて路上をにぎわした露天商の姿は消え、改修工事が進む。路上の繁盛を懐かしむ声は絶えないが、時代の風がジャカルタの「伝統」に吹きつける。
 露天商移転はジョコウィ州知事の「近代化政策」の象徴だ。知事がソロ市長時代に進めた政策をジャカルタに導入した最初の例。「総本山の大撤去」はメディアを騒がせ、公権力を強くする州政府の姿勢を印象付けた。知事は2日、改修を終えた移転先の州営市場「ブロックG」を報道陣に公開。タナアバンを成功例として宣伝したい思いがにじむ。
 州はブロックGの入居に特例とも言えるインセンティブを設けた。露天商900人に対し、構内の銀行は商店主向け少額融資を提供。老朽化した建物を改修し、1.2メートル四方の売り場の賃料は初めの6カ月間は無料だ。
 だが、元露天商からはすでに不満が出ている。問題は客足の少なさ。そもそも露店商が移った3、4階は「シャッター街」として名高かった。そこを改修し、市民にも宣伝することで移転を成功させる目論見だった。
 「まだ1着も売れていない」。イワンさん(42)は懐郷の情をにじませる。路上では警備代など月に50万ルピアをプレマン(チンピラ)に納めた。それでも通り掛かりの客であふれた路上では、200万ルピア売り上げる日もあったほど。いまブロックGの3階に訪れるのは、近所の商店主ら知り合いだけだ。
 エスカレーター、冷房、大型照明‥。元露天商からは州への「要望」が噴き出した。極めつけは「ナイトマーケット案」だ。露天商のヤントさん(42)は「昼はブロックG、夜は路上で夜市を開くのが良い」と語る。交通量が減る夜間は渋滞も引き起こさず、観光名所になる。事実上の路上復帰も兼ねる「妙案」だ。
■「知事選の報復」説も
 「移転者が路上復帰するかもしれない」。露天商の管理に密接につながってきた社会団体「プムダ・パンチャ・マルガ(PPM)」のある幹部が強調するのは、過去の移転でも数カ月後には再び路上に戻ったという事実だ。
 露天商の多くは地方からの流入者。先月の強制撤去後、ブロックGに半分は入居できたが、もう半分は故郷に帰った。「身寄りのない地方出身者の互助組織的な要素が社会団体にはある」と露天商擁護の姿勢を見せる。
 PPMの代表は「露天商の元締め」のアブラハム・ルンガナ州議会副議長(愛称ハジ・ルルン)。PPMは退役軍人の互助組織を基に発足、スハルト政権以降の学生デモには、国軍兵士の前に列をなし、デモ隊と対峙した。国軍、警察と深い関係を持つという。
 そのルルン氏の政治組織「ハルス」では、強制撤去は「知事選の報復」との見方が上がる。「自称ブタウィ(ジャカルタ土着の民族)」の多いタナアバンでは、ブタウィを強調するファウジ候補への投票が、ジャワ人のジョコウィ知事を上回ったからという。露天商がひしめいたクボンジャティ通りにあったハルスの詰め所も先月末、撤去された。
 ハジ・アリ・ジャワスさん(50)は移転のあおりを受け、苦い思いをした。州がブロックG改修で山羊のと殺場を撤去したことに憤慨する。ブタウィの民族帽をかぶるアリさんは親子3代でと殺場を取り仕切ってきたという。「タナアバンは『東南アジア最大の服飾市場』として知られるが、そのずっと前のオランダ植民地時代から山羊の市として有名だったのに」とため息をついた。アリさんもハジ・ルルンを支援していた。今は跡形もなくオートバイの駐車場になった。(つづく)(吉田拓史、写真も)

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