【揺れる民主化・2部政治】(3)古傷忘却、追い風に プラボウォ

 来年7月大統領選挙の有力候補に挙がっている退役軍人プラボウォ・スビアント氏(61)。古顔が並ぶ世論調査では軒並み上位を占め、自ら率いるグリンドラ党も支持率が上昇。15年掛けて名誉回復と強力なリーダーシップのイメージ確立に取り組んできた戦略家だ。
 スハルト政権を支えた著名経済学者の息子で、スハルト元大統領の娘婿。将来の大統領候補と有望視される一方で、東ティモールの市民虐殺など軍の秘密工作を指揮する強面の軍人―。
 謎に包まれたエリート軍人のイメージは、スハルト政権末期に発生した陸軍特殊部隊(コパスス)司令官在任中の活動家拉致事件、陸軍戦略予備軍(コストラッド)司令官在任中の5月暴動でさらに強まった。
 しかし政変を経て、プラボウォ氏は軍内の権力闘争に敗れ、軍籍をはく奪された。「活動家拉致は上官に報告せず、プラボウォ氏独断の秘密工作だった」「自身の部隊を大統領宮殿に向けて派遣した」「クーデター未遂の動きがあった」。独裁政権では隠ぺいされた証言が、書籍やテレビのトークショーなどを通じて明らかにされる時代になった。
 「しばらくビジネスに専念する」とヨルダンへ事実上の亡命を強いられ、この間、活動家拉致や5月暴動の舞台裏について釈明。スハルト氏の次女とも離婚した。
 ほとぼりが冷めた04年、ゴルカル党の大統領候補選挙に出馬したが落選。08年、新党グリンドラ党を旗揚げし、拉致被害者の元活動家を党員に迎え、古傷は過去のものとアピールした。09年の大統領選ではメガワティ元大統領とペアを組んだが、決選投票で敗北した。
 「優柔不断な大統領」。強面の軍人のイメージはインテリ将校のユドヨノ氏で一変した。再選した09年以降、連立政権の不調和で指導力が低下したユドヨノ氏への批判も続出。現政権への不満をくみ取るように、リーダーシップをアピールするプラボウォ氏に注目が集まり始めた。
 だが当時の軍高官の汚名が完全に晴れたわけではない。人権団体コントラスのアレックス氏は「軍人時代のプラボウォの悪行を忘れるな」と警鐘を鳴らす。
 特に華人が主な標的となった5月暴動の記憶は次世代に受け継がれている。昨年のジャカルタ特別州知事選で、プラボウォ氏は華人の副知事候補アホック氏を推薦。メガワティ氏擁立のジョコウィ知事とペアを組んで当選したが、「罪滅ぼしと華人の人気取り」との見方も出た。
 華人団体インティのユスフ・ウィジャヤ氏(28)は、アホック氏の活躍に期待するが、擁立したプラボウォ氏への不信感は根強い。「やはり警戒すべき人物だ」と話した。(配島克彦、写真も)(おわり)

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