【揺れる民主化・1部社会】(1)スハルト懐かしむ心地 よかったあのころ (2013年05月21日)

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 スハルト政権崩壊から15年。ユドヨノ政権の10年で政治が安定し、経済が成長したというマクロの数字と、オラン・クチル(庶民)の実感は必ずしも重なり合わない。むしろ、物価高で生活は苦しくなったというのが、庶民の常識だ。物の値段が安かったスハルト時代を懐かしむ声は引きも切らない。
 中央ジャカルタ・チキニでかゆ屋台を引くドノさん(50)は当時を懐かしんだ。「スハルト時代は良かった。補助金で生活必需品は安かったし、大型事業のおかげで雇用があった」。この15年でかゆの値段は3倍に上がった。「今は何でも高い。生活は苦しくなる一方だ」
 中央ジャカルタ・クボンカチャンのオジェック運転手、テオフィックさん(54)も同様だ。経済は成長したが、庶民には新しい悩みが生まれたという。「今の問題はクレジット。借り過ぎて悩む人が多いよ」。テオフィックさんも月70万ルピアのオートバイのローンの支払いに悩まされている。だが、商売道具を手放すわけにもいかない。
 莫大な補助金で物価が抑えられたスハルト時代。成長に伴い物価が上がる民主化時代。かつての補助金構造が現在までの国家財政の負担になっているが、低所得者層には「成長」の果実を享受できていないとの思いが強い。不満は政治に向かう。
 テオフィックさんは国鉄のエコノミー車両廃止に憤る。東ジャワ州への帰郷の費用が5万ルピアから上級車両の15万ルピアまで増えたからだ。補助金燃料も2千ルピア程度上がりそうだ。「ユドヨノの民主党は大事なものを壊している」
 一方、ドノさんは「諸悪の根源」が連日メディアを騒がす汚職にあると感じている。「金持ちは汚職をしてもっと金持ちになる。貧乏人の生活はもっと苦しくなる」というのが定説。ドノさんは清新なイメージだった与党第3党の福祉正義党(PKS)の牛肉輸入に絡む汚職疑惑とそれにまつわる女性スキャンダルをこう皮肉った。「あの坊ちゃんのPKSじゃ『牛肉が女優を食べる』んだ」
 懐古心にとらわれるのは高齢層だけではない。パサール・バルで美容師をするアティアンさん(33)は2児の母。夫もテレビ局で働き、暮らし向きは悪くない。だが、今の政治に良い印象を持っていない。「この10数年で貧乏人の生活は苦しくなった。SBY(ユドヨノ)は庶民を気にかけていない。スハルト大統領は庶民の生活を助けた偉大な人」と断言した。マクロ経済と庶民の感覚には大きなずれが生じている。(吉田拓史、つづく)


 民主化の15年が何をもたらしたのか。インドネシアはこれからどこへ向かうのか。連載でその軌跡を追い、将来を展望する。社会、政治の2部構成で伝える。

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