【揺れる民主化・2部政治】(2)汚職 せめぎ合う腐敗と撲滅 (2013年05月30日)

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 「AU(アナス・ウルバニングルム民主党党首)を容疑者に断定した」。2月22日夜、汚職撲滅委員会(KPK)庁舎はメディア関係者であふれた。アナス氏はスハルト政権崩壊当時のイスラム学生同盟(HMI)代表。汚職、癒着、縁故主義(KKN)を払底するレフォルマシ(改革)を叫んだ学生指導者の汚職関与疑惑は、政治腐敗が独裁政権崩壊から相続されてきたことをありありと語った。
 アナス氏の容疑者断定をめぐり、KPKの独立性が問われた。2月上旬、民主党執行部がアナス更迭のシグナルを発したとき、KPKから副委員長の許可印なしのアナス氏捜査指示書が漏えいした。アナス氏はユドヨノ大統領がKPKに影響力を行使し、捜査させたと主張。アナス氏が「政治捜査」を受けたとすれば、KPKが汚職事件の捜査、起訴の権限を握ることの正当性が揺らぐ。
 政党汚職は構造的問題をはらむ。ある政党の関係者は「どの党も汚職している」と断言する。テレビ広告や大型キャンペーンで競い合う選挙、全国各地の支部、資金力のある小政党が乱立する「過当競争」。「うちの党公認を得るには執行部に50億ルピアが必要。議員になれば汚職して金を回収するんだ」。改革を遂行するべきはずの政党政治が汚職を必要としているのは皮肉な構図だ。
 民主化以降、汚職は地方に拡散した。国家予算の3割が地方交付金に充てられる仕組みができると、予算の使途を決める首長、州議会がその金に手をつける。法務人権省によると、2004〜13年で首長291人、議員を含む公務員1221人が汚職で容疑者断定、起訴、確定判決を受けている有様だ。
 自治体の一族支配も頻発する。東南アジア地方政治に詳しい京都大学東南アジア研究所の岡本正明准教授は「ハサン・ソヒブ一族によるバンテン州支配は地方で一族支配が進む『フィリピン化』の端的な例だ」と指摘する。
 ハサン氏はスハルト時代は国軍、ゴルカルの下部に位置するやくざ集団の領袖だったが、分権の潮流に乗り、州予算の一部を受け取り公共事業の分配を決める「総督」と化した。州県市の首長ポストに親族13人を配置し内側を固め、中央と強いパイプがあるため立件は難しい。対抗勢力にはやくざ集団を振り向け、取り込んでいく。11年6月にハサン氏が死去した後も、娘のアトゥット現知事ら親族が州支配の仕組みを継承している。
 岡本准教授はこう分析する。「小手先の制度改変は効果がない。20年かけて司法、警察を改革し、メディアが情報を透明化させるべきだ。外資が入り必要に迫られ自治体が透明化した例もある」
 汚職撲滅は着実に進展している。現職党首や閣僚の追及は「政治中枢を立件できる前例」を生み出した。03年の発足以来、KPKは政党や警察など既成勢力からの熾烈な攻撃を受けてきたが、世論を味方にはね返してきた。最近の与野党中枢の不正追及で、透明化を推進する急先鋒の独立捜査機関の機能が改めて問われている。(吉田拓史、つづく)

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2月17日の民主党全国代表者会合でアナス党首(左)の続投を決定したユドヨノ大統領(右)。この5日後、KPKはアナス氏を競技場に絡む汚職事件で容疑者に断定し、アナス氏は翌23日党首を辞職。後任はユドヨノ大統領になった=吉田拓史写す
2月17日の民主党全国代表者会合でアナス党首(左)の続投を決定したユドヨノ大統領(右)。この5日後、KPKはアナス氏を競技場に絡む汚職事件で容疑者に断定し、アナス氏は翌23日党首を辞職。後任はユドヨノ大統領になった=吉田拓史写す

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