【揺れる民主化・1部社会】(5)ソーシャルメディア 携帯で気軽に抗議運動 

 「恋人にもらったの」。中央ジャカルタのクボン・カチャンでメードとして働き始めて2年のティアさん(19)は携帯電話を見せてはにかむ。半年ほど前からソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェイスブック(FB)を使い始めた。通信・通話料は月3万ルピア。安価で故郷の友達や家族と連絡を取り合えると満足げだ。
 インドネシアの携帯契約者数は人口を超える2億5千万人で世界4位。FB登録者数は2011年に4306万人でアジア第2位となり、昨年、ツイッターの投稿数は世界1位を記録した。
 通信技術の発達とインドネシアの民主化はほぼ同時に進行してきた。携帯電話が普及し始めたのは1997年。アジア通貨危機やスハルト政権批判の高まりとともに広がり、携帯を手にした活動家がデモを動員した。独裁者やその取り巻きの裏情報も規制が厳しいマスメディアではなく、ウェブサイトを通じて広まり、レフォルマシ(改革)運動を後押しした。
 連絡を取り合うための通信機器から、誰もが情報を発信、共有できる身近な携帯端末になったのは、大統領選が実施された2008〜09年ごろ。FBを活用するオバマ米大統領が話題になった時期だ。インドネシアでは、メガワティ元大統領を批判するユーザーグループ「メガにノーを!」が開設され数万人が登録、多数の批判が集まった。
 さらに同年FBを通じ、誤診されたと批判したメールが広がり、病院に告訴された主婦プリタさんへの支援運動が拡大。10年には警察の汚職捜査対象となった汚職撲滅委員会(KPK)のビビット、チャンドラ両副委員長を支持する運動も起きた。
 昨年には、未成年の少女と結婚し、即離婚した西ジャワ州ガルット県のアチェン知事の辞任騒動も、FBやツイッターで結婚式の写真などが広がったのが発端だ。「女性を馬鹿にしている」と、猛反発した主婦らが次々と知事解任を訴えるコメントを書き込み、マスコミも大々的に報道。辞任を断固拒否する知事に対し、県議会の不信任決議、最高裁の罷免判決、大統領の辞任勧告と圧力がかかり、知事は今年2月解任に追い込まれた。
 いずれもSNSとマスメディアが連動し、やり玉に挙げられた政府や捜査当局などが措置を講じた好例だ。他国では処罰対象となる可能性もある政治批判も自由に展開されているが、SNS上の運動は一時的な盛り上がりに終わる危険性もある。
 中央ジャカルタの警備員ウディンさん(24)はFBでニュース記事も読むが、友人と連絡を取り合うのが主な使い方。「デモの呼びかけもあるが参加しない。時間の無駄だから」と関心は低そうだ。
 民主化とともにSNSが市民の意見発信の手段として定着した。今後、さらに高度な機能を持つ携帯情報端末が普及する中、市民を引きつけ、自ら意見を表明する一つの有効な手段となるかが問われていきそうだ。(宮平麻里子)

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