【人と世界/manusia dan dunia】 彫金にイスラム文化 彫金師・喜多村保孝さん

 犠牲祭で自らと殺したヤギの頭蓋骨に、熱帯植物パンダンの葉を千切りして貼付け、さらにアクリルで塗装した。原形はそのままだが、幾重にも変容を遂げたヤギ。インドネシアのイスラム文化が他文化に侵食されている現状を表現した。彫金師の喜多村保孝さん(35)。2010年からインドネシアに移り住み、アラビア文字のカリグラフィーとグラフィティアートを融合した作品製作に取り組む。

 日本語教師としてプサントレン(イスラム寄宿学校)に勤める傍ら、アラビア語やコーランの暗唱の授業を受けている。校内に飾られたカリグラフィー、犠牲祭や断食などの宗教行事。プサントレンから、さまざまなインスピレーションを得ている。「イスラム文化と彫金を組み合わせた作品は世界でも例がない。自分が先駆者だと思って開拓していきたい」と力を込める。

■金属を自在に彫る
 かんざしや根付を製作する明治時代から4代続く錺(かざり)職人の家に生まれた。幼少期から加工を終えたかんざしや根付を持って、父の知り合いで人間国宝の候補にもなった彫金師の堀田重一さん(86)の工房に出入りした。堀田さんの金属を自由自在に彫る姿に憧れたという。「彫金との出会いは衝撃的だった」
 98年、彫金技術を学びたいと東京藝術大学の彫金科に入学。授業は理論ばかりで実践的な技術を身に付ける機会は少なかった。「彫金技術を本場の職人から学びたい」と一念発起し、同大を中退。堀田さんの工房へ足を運び、弟子入りを志願した。
 しかし、何度頼んでも断られた。昼はファッショショーで使われるアクセサリーの製作、夜は彫金の技術を独学で練習した。技術で分からないところがあれば同氏の工房を訪ねて教えを請う。こうした生活を続けて約1年半。ようやく念願の弟子入りの許可が下りた。

■アクリル塗装の仏像
 師匠の下で修行を積んで8年。彫金師の高齢化が進み、後継者不足が深刻化し、現在活動している彫金師は20〜30人のみ。彫金を盛り上げようと新たな試みに取り組む必要性を感じ、海外に目を向けた。
 「彫金という伝統技術と現代アートを組み合わせた新しい彫金の在り方を海外で浸透させたい。海外で有名になれば、日本国内でも彫金に注目が集まる」
 09年、東京に来ていた香港のアートギャラリーに直談判。作品を売り込み、香港や上海で個展を開催した。彫金には珍しいアルミ版を使用し、アクリルで塗装した仏像が好評を得たという。香港で出会った美術関係者と一緒にタイとマレーシアを旅行した際、東南アジアの目覚ましい勢いを肌で感じた。
 「活気のある国で創作活動をしたい」。楽器の修理工の職を得て来イ。現在はプサントレンの日本語教師をしながら創作活動に精を出す。
 日本の彫金技術とイスラム文化の融合。約1年にわたる試行錯誤の成果として、今月、国際交流基金ジャカルタ日本文化センターで彫金アート展「トライング・トゥー・シー・ザ・インビジブル」を開いたばかり。「彫金は僕のアイデンティティー。インドネシアを拠点に世界で注目される彫金師を目指したい」と意気込む。(小塩航大、写真も)

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