未来へ急成長、昔の生活も健在 パレンバン LRTとポッポ船でぷらっと
待望のMRT(大量高速鉄道)が開通し、都心部における長年の渋滞や近距離移動の不便解消に期待が膨らむジャカルタ。夢のような春うららな気分に小躍りしながらご紹介する今回のおすすめ観光情報はインドネシア国内で空港と都心を結ぶ公共交通機関の次世代交通システム(LRT)が既に市民や旅行者の足として定着しているパレンバンです。
南スマトラ州の州都パレンバンは日本とも歴史的関係が深く、昨年はジャカルタと共にアジア競技大会の開催地にもなった大都市です。文化的未来型都市へと急成長する様子と伝統や昔ながらの生活様式が混在する活気みなぎる街というのがその印象。石油、石炭などの資源が豊富で商業、経済の重要都市でもあり、のほほんとした気分で訪れるとその勢いに圧倒されてしまうようなエネルギーに満ちあふれています。
空の玄関口、スルタン・ムハンマド・バダルディン2世国際空港は総延長約23キロのLRTで市内と直結しています。このLRTはいわゆる「空港鉄道」ではなく市内各駅に停車する都市交通として運行されているので専用乗車券も不要。高速道路の支払いなどにジャカルタでも利用する手持ちの電子マネーが使え、空港から市内までの運賃はことし2月現在で1万ルピアという手軽さです。スマトラ島のメダンとジャカルタでも空港に鉄道は乗り入れていますが、このような在来線併用の一体型はパレンバンの最大の特徴であり、利点。空港アクセスの良さから「ふらっと行ってみようかな」という旅の目的地としてもパレンバンがおススメになるポイントです。
市内中心部、真っ赤な色のアンペラ橋は街のシンボル。歩道も整備されていてLRTの駅もあります。丸い顔のクロックタワー、眼下の川と橋が交差する景観は何かに似ているな、と思ったらロンドンのテムズ川にかかるウェストミンスター橋とビッグベン……というのは発想が飛躍しすぎでしょうか。
橋の下を流れるのは「ムシ川」です。コーヒー牛乳色の水面と行き交う色鮮やかな伝統的木造船のコントラストが美しく見ていて飽きません。近くには伝統的市場もあり、大量の仕入れや買い出しのためにかつては舟が重要な川渡りの手段だったと想像できます。
川岸で船を見ていると「乗らないかい?」と誘われました。行き先はアンペラ橋の下から木造ポッポ船で片道約30分、派手な中国寺院が有名な通称「プラウ(島)」、クマロ島です。行ってみたいとお願いすると船頭さんが最初に立ち寄ったのはなんと川の上の燃料屋台船。いつものことよ、といった様子でポリ容器に入った燃料を買って手際良く給油する姿は頼もしい限りです。
しばらくすると巨大工場が見えてきました。石炭精製工場のようです。大興奮して写真を撮り続けていると船頭さん、今度は無言で近づいて速度を落としてくれました。近くで見上げるその規模は迫力満点です。一通り写真を撮り終えると船頭さん、小声で「スダッ?」とニヤリ。寡黙ながら心優しい船頭さんのおかげで教科書ではわからない貴重な体験ができました。
こうした行き当たりばったりの旅には心構えと多少のテクニックが必要です。ですが得る物はそれ以上。皆さま、一緒に旅に出ましょう。(水柿その子、写真も)