車両規制で揺れる名所 無料自転車サービスも ジョクジャカルタ
ジョクジャカルタ特別州のマリオボロ通り。同州最大の目抜き通りで、屋台や土産屋、モールがずらりと並び、観光客でにぎわう名所の一つだ。州交通局はさらなる集客を目指し、2車線ある道路の一般車両通行禁止を計画、11月25日から試験導入を目指していたが、このほど延期が発表された。変わりゆく名所を行き交う人々に話を聞いた。
17日午後、マリオボロ通りの歩道を歩いていると、緑のフレームに赤い泥除けの真新しい自転車が並んでいた。州政府が計画に合わせて始めた無料貸し出しサービス「ジョクジャバイク」のステーションだ。自転車はハンドルの前にかごが付いた、いわゆる「ママチャリ」タイプで、周辺の歩道では記念撮影をしている人もいた。
同州に観光に訪れるのは3回目という、東ジャワ州スラバヤ市在住の会社員、シルフィさん(24)は「自転車でマリオボロ通りを走るのは初めて。楽だし、新しい体験ができる」とワクワクした様子で語った。
QRコードをスマートフォンアプリで読み取ると利用できる仕組みで、モールの前に8台が配備されていた。利用案内をしていた州政府職員のロナル・ヘンドラルトさん(30)によると、利用時間は午前8時から午後9時まで。利用上限は5時間で、スマートフォンのGPS機能を使って自転車の位置を把握する。11月上旬から貸し出しを開始しており、平日は80人以上、休日は100人以上が利用している。
ロナルさんは「通りを行き交うエコな移動手段になる。自転車での観光は多くの人にとっては新体験で魅力的だ」と話した。通りでは現在、四つのステーションに計24台配備されており、今後も拡大を続けていくという。
通りの脇にある店はどこか歴史を感じさせる「老舗」の装い。自身が経営するバティック(ろうけつ染め)店の前でコーヒーを飲んでいたソロ・プルアントさん(30)は、父から受け継いだ2代目。店は30年以上前からあり、バティックや土産物を販売してきたという。
ソロさんは一般車両の通行禁止については「今の通りは観光地にしては車が多すぎる」と肯定的。歩行者が増えれば商品も目にとまりやすく、客も増えるだろうと話した。
■ベチャの行方は?
脇道に入ると、ベチャ(三輪人力車)の運転手らが談笑しているのが見えた。交通局が通行を許可し、計画の「受益者」とされる運転手らだが、計画には懐疑的な声が聞かれた。
通りを20年以上走ってきたパジョさん(44)は「本当に規制を受けずに済むのかわからない。もし通りに入れなければ、今よりさらに客は減るだろう」と険しい顔を見せる。
パジョさんによれば、ベチャは近年、グラブなどの二輪タクシーに押され、利用率は下落の一途をたどる。パジョさんの後方には、休日にもかかわらず使われていないベチャ10台以上が並べられていた。
パジョさんは今まで、通りを中心に、複数カ所を巡る観光案内で生計を立ててきたが、現在の収入は多い時でも日に4万ルピアほどだという。「妻と子どもを満足に食べさせることができない」
約1キロの通りを見て回るのなら徒歩でも十分で、自転車サービスもベチャにとっては向かい風だ。他所との複合的な案内を行おうとも、州政府が連絡バスの整備を進め、周辺では二輪タクシーが増加する。計画は長年同通りの観光を支えてきたベチャ運転手の状況を改善できるのか。運転手らの表情は晴れない。(大野航太郎、写真も)