【投資特集】 今こそ投資のとき 安定した経済成長続く 若年層の多さ、内需拡大、豊富な資源

 二〇〇八年の世界金融危機を切り抜け、世界四位となる二億四千万人の人口を武器とする内需の拡大をけん引役に、好調が続く対インドネシア投資。直接投資を管轄する投資調整庁(BKPM)のアズハル・ルビス投資監督・実施担当次官(兼投資環境・開発担当次官)は「将来を見据え、今こそ投資すべきとき。GDP(国内総生産)も一兆ドルに近付く。今後も伸びていく予定。一人当たりのGDPも増加していく」とインドネシアへの一層の投資を呼び掛けている。

 ―昨年のインドネシア向け投資の状況は。
 ◆ルビス次官 二〇一〇年から二〇・五%増となる二百五十一兆三千億ルピア(約二兆一千億円)となり、十分高い水準で、目標を大幅に上回った。
 地域別では、ジャワ島外が二九%から四一%に増えたのが大きな特徴。富の配分という意味でわれわれにとって非常に好ましい結果だ。島外の投資が増えれば、地方の経済活動は活性化し、ジャワ島以外での雇用も創出される。
 また、川下の産業への進出も進んでいる。ジャワ島外では、資源とその加工産業を統合した形での投資案件が増えている。
 例えばカリマンタン。国営鉱山会社のアンタムと日本の昭和電工が、ボーキサイトの産地でアルミナ工場を建設している。
 北マルク州ハルマヘラでは、フェロニッケルの製錬工場の計画が進んでいる。
 ファイナンス面でも、イスラム開発銀行(IDB)がこれまでの駐在員事務所を支店に格上げする計画だ。これまでは政府への資金拠出だったが、今後は民間への資金供給も進めていく方針で、インフラ、エネルギー、教育分野に重点を置いており、インドネシア政府の方向性にも合致している。
 日本の地位も再び上昇している。一時は低迷していたが、近年は再び盛り返し、昨年は外国投資の国別でシンガポールに次ぐ二位だった。自動車・二輪産業の部品供給メーカーの進出など、日本もインドネシアで産業構造の深化を図る必要に迫られていることが背景にある。

 ―今年の直接投資誘致目標は。
 ◆内外合わせて、前年比一五%増ほどの二百八十兆五千億ルピアに設定している。しかし、ギタ・ウィルヤワン長官(兼商業相)は「二百九十兆ルピアに達する」と発言するなど、すでに目標を上回るとみている。
 投資がさらに増加するとみる一つの要因は、インドネシアが欧米の格付け会社による格付けで投資適格となったこと。IDBも、投資適格入りが投資家に信用を与えるとして、本格進出を決めた。民間企業も、より低いリスクで資金調達ができるようになるため、目標達成は十分に可能だ。
 国民所得もすぐに五千ドルに達するだろう。ジャカルタだけを見れば、一万五千ドルに達するのも近い。
 ジャカルタのショッピングモールを見れば、景気が良いのはすぐに分かるし、マンションの売れ行きも依然好調。モールの日本食レストランも週末には行列ができている。
 インドネシアは五千万から七千万人が中間層。二億四千万人の平均所得が三千ドルと捉えるのではなく、一万ドル以上、一万五千ドル以上はどれほどの割合かと見るべきだ。
 一方で欧米経済の先行きが依然として不透明性が高いことが一つの懸念材料となっている。

■ 加工分野に重点 
―目標達成のための戦略は。
 ◆まずは資源に付加価値を付けるための加工分野を強化すること。二〇一四年に未加工の鉱物資源の輸出が禁止となるために、今から準備を進める必要がある。
 農業分野でも川下化を進めていく必要がある。実際に南スラウェシではカカオ豆を加工し、粉末やエキスにする案件やパプアでもパーム油生産の計画が進んでいる。
 そのためにはインフラが重要となる。ユドヨノ政権は二〇一四年にジャカルタと東ジャワ州スラバヤの間の高速道路整備や鉄道の複線化を完了する計画を立てている。完成すれば、物の移動もより円滑になる。(ジャカルタ郊外の)スカルノハッタ空港とジャカルタ、バンテン州タンゲランを結ぶ二件の空港鉄道の計画も進められている。
 近年の課題となっている電力についても、二、三年後には十分確保されるだろう。昨年の内外投資とも分野別で三番目が電力・ガス・水道で、その大半は電力。多くの民間企業が、IPP(独立電力事業者)事業を進めようとしている。
 投資家によく「電力は大丈夫なのか」と聞かれるが、今は不足気味だとしても、新規の投資家が事業を始めるであろう二、三年後には電力問題がなくなっていると確信しており、いつも「電力はある」と答えている。
 また忘れてはいけないのが、労働者のスキルの問題。インドネシアの労働者は技能不足だと言われてきたが、工業高校で自動車を作るなど、能力はあり、それほど心配する必要はない。彼らは高校生で、すぐに働けるようになる。人口構成も六〇%が三十歳未満と若く、非常に生産的だ。
 インドネシアは、憲法に沿って国家予算の二〇%を教育分野に割いている。五年後、十年後は、全体の教育水準もより高くなる。修士や博士号取得のために海外留学する人も増えている。いずれも将来を見据えた動きだ。

 ―日本からの投資の状況はどうか。
 ◆工業国の日本は、化学、自動車・二輪車部品がメイン。自動車販売は昨年が九十万台近く。今年は百万台にも達するといわれており、当然、部品も必要となる。
 化学産業も、ほかの産業が拡大するにつれ、需要が一層拡大するため、インドネシアの産業発展に不可欠だ。

■ 産業構造を強化
 ―投資優遇措置に関する政府の方針は。
 ◆最近では政令二〇一一年五二号で定められ、特定分野を対象としている。
 原則はインドネシアの産業構造を強化するため、不足する部分を補うもの。例えば、冷房機器自体は対象外だが、そのコンプレッサーは対象になるというようなものだ。
 まったく新しい分野への参入に優遇措置を与える方向性で、これまでにインドネシアが輸入していた種類の鉄鋼を製造する韓国のポスコなどが一つの例。基本は輸入関税を無税にするというものだが、特定製品には所得税の減免措置を講じる。
 日本も、BKPM前長官のルトゥフィ駐日大使が積極的に日本企業の本社の幹部と会談し、インドネシアへの投資を呼び掛けている。すでに多くの企業が拡張投資などを決めた。これから投資申請を行い、承認を受ける予定の案件も数多くある。

 ―投資申請手続きサービスについて、BKPMの取り組みは。
 ◆常に改善を図っている。物理的な部分だけでなく、担当者の姿勢についても訓練を行っている。定期的な人事異動も実施し、常にリフレッシュしている。
 特に問題となるのは地方。地方政府と接することになる。そのため、地方での投資申請のワンドア統合サービス化や、われわれが常に状況を把握をすることができるよう電子化を進めている。トレーニングも行い、必要な機材も供与している。

 ―日本の投資にどのような役割を期待しているか。
 ◆われわれは依然として日本の投資を必要としている。特に、不足している産業分野を充足する意味でもだ。日本には技術力がある。中小企業の投資にもその部分を期待したい。
 また、観光業の進出も望んでいる。ハワイを見れば分かるように、日本の観光業も大きな武器。日本の専門性を生かした観光開発が望まれている。
 例えば、ロンボクには土地もあり、新空港もできた。日本のやり方を生かした観光開発業者が来るのは大歓迎だ。われわれの国営企業でヌサドゥアを開発してきたバリ観光開発社(BTDC)がすでに一千ヘクタール以上の土地を確保している。そのうち五十ヘクタールをゴルフ場やホテルなど日本の業者が開発したいと申し出れば、大歓迎だ。必要であれば、BTDCと日本の投資家の橋渡しもしたい。

◇ アズハル・ルビス氏
 1958年9月、北スマトラ州マンダイリン・ナタル県パニャブンガン生まれ。53歳。ボゴール農科大学(IPB)で農業経済学を学び、82年に投資調整庁入庁。88―90年に米ウィスコンシン大学で経済学修士取得。現在、6つの次官ポストのうち、投資監督・実施担当と投資環境・開発担当を兼任する。

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