【じゃらんじゃらん特集】 摩訶不思議な森へようこそ スラウェシ固有種の宝庫 タンココ国立公園

 あなたの経験したことのない自然がそこにある―。「最後の楽園」と呼ばれる北スラウェシ州のタンココ国立公園。生き物たちの鳴き声が渦巻くジャングルには、大陸から孤立した島が育んだ珍妙異形の動植物が凝縮する。自然が覆い尽くした異空間で、不思議なひとときを過ごしてはいかがだろうか。(吉田拓史、写真も)

 ジャングルに入ると目を丸くした。木はすうと伸びて30メートル以上。さまざまな葉草がうっそうと茂り、頭上の陽光を砕く。昆虫のトロピカルな模様は歴史の刻印のごとく、匂いは鼻の芯を打つように濃密だ。どれもこれも、日本の森とはまったく違う。圧倒的―。
 音もまた強烈だ。遠くからは警報機のようなセミの鳴き声。踏んづける枝のみしみし。葉のそよぎにはいくつもの種類がある。どこからか獣や鳥、昆虫たちが出す音が聞こえてくる。
 歩くこと数十分。巨木に絡まるつたの前で、タルシウス(日本名メガネザル)に出逢った。手のひらサイズの小さな体。体長10センチ、重さはわずか100グラムほど。くりくりと俊敏な動きでつたを降り、記者の目を見つめてきた。大きな目がうるうるしている。こんな愛おしい動物がいていいものか。
 指笛を盛んに吹いてタルシウスを呼んだガイドのユディさん。「この巨木がタルシウスの巣なんだ。(こんこんと木をたたく)中身は絡まったつたのせいで腐って空洞になっている。そこでタルシウスは昼の間眠り、夜になるとこうやって現れるわけさ。つたは植物や岩に巻き付いて絞め殺すように成長するため、『絞め殺しの木(イチジク類)』と呼ばれてるんだ」
 するとユディさんがおもむろに頭上を指した。はるか高い木々の枝にクスクスの家族がぶら下がっていた。少し後には群れからはぐれたクロザルに出会った。動物園のとは違い、みな動きが荒々しい。
 タンココは約9000ヘクタールの広大な敷地。ジャングルだけでなく、火山岩が砕けた黒い砂浜の広がる海岸沿い、活火山、滝など変化に富む。
 19世紀、生物学者・探検家でダーウィンとともに自然選択説の共同発見者であるアルフレッド・ラッセル・ウォレスが探険。長年の調査でインドネシアの群島に動植物の分布境界線「ウォレス線」を引くことを提案した。タンココはちょうどその境界線上にあるため、50種類に及ぶスラウェシ固有種など特異な動植物の宝庫だ。
 これを目当てに、西欧のトレッキング・鳥観察愛好家らがやってくる。探検服、登山靴と冒険家さながらの姿やバックパックと大砲のような望遠カメラを持つ西欧人が多数派。60代のフランス人のサトリさんは双眼鏡にしがみついて離さない。「3週間、ホームステイして毎日トレッキングしているよ。今日はもう希少な鳥を10羽は見たかな」と口元がつり上がる。
 若者にはマカッサルからマナドまで北上するルートの一つとして人気。「3週間前にマカッサルから旅を始めて、トラジャ、パルと北上してきた。昨日までブナケン島でダイビングを楽しんでいた」とドイツ人大学院生のマックスさん。それにしても知的そうな人が多かった。

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