【人と世界】森林政策決定を支援  久保英之さん(49)

 世界有数の生物多様性を誇るインドネシアの森林を守り、温室効果ガスを減らすインドネシア政府の取り組みに関わる日本人がいる。国連インドネシアREDD+調整事務所の久保英之さん(49)だ。政府開発援助(ODA)事業など約20年にわたる森林現場の経験を生かし、森林政策を決める関係者の支援に尽力する。

 久保さんは昨年9月から現職。同事務所の役割は政府の知的支援だ。関係者の理解を深めたり、具体的な助言をしたりとサポート役に徹する。森林破壊を防ぎ、温室効果ガスを減らす取り組み(REDDプラス)を円滑に進めるのが狙いだ。
 REDDプラスは途上国の森林保全に先進国が資金を出す、温暖化防止の新たな取り組み。インドネシアでの成果が世界の同様な事業に与える影響は大きい。注目が集まるのは透明性と、生物多様性や地域住民の福祉、生態系の持続性向上だ。進展があれば、REDDプラスが社会経済開発にも役立つ制度として、投資家や企業をはじめ、国際社会の信頼が高まる。
 インドネシア森林業の汚職に対する国際社会の警戒心は強い。スハルト政権下で横行した森林業の利権をめぐる汚職疑惑があったためだ。
 だが、毎週の意見交換を通じ、インドネシアの森林政策関係者の意気込みは高いと感じる。特に元アチェ・ニアス復興再建庁長官で、REDDプラス関連事業を中心となり進めてきたクントロ・マンクスブロト開発管理調整官は責任感が強い。森林地を国有地として、先住民に所有を認めない林業法は違憲だとの昨年の憲法裁判決後、周知のための勉強会を開くなど、判決を受けた取り組みを迅速に進める行動力を見せた。
■政府主導が必要
 森林が抱える問題は複雑で、解決に国の主導が必要だ。土地所有・管理権や森林地指定など、林業省だけでは解決できない問題が多い。
 一つの例が、森林地指定と現実のずれだ。林業省が保護・保全のため森林地に指定した土地は実際は居住地や荒廃地を含む。逆に、国土庁が管理する非森林地の中には、約700万ヘクタールに上る天然林がある。
 林業省は森林の保護・保全用と決めた土地の開発許可を出さない。たとえ中に荒廃地があっても、森に戻すべきとの立場だ。一方、非森林地に含まれる天然林は、開発許可を得た企業が伐採できる。
 森林指定地に含まれる荒廃地の利用が、天然林を残す鍵になると久保さんは指摘する。ユドヨノ大統領は荒廃地をアブラヤシ農園の拡大に使う意向がある。実施が進めば、天然林保護に大きな効果があるはずだ。
■やはり「現場」
 非政府組織やODA事業の経験で、一部地域に限られた支援に限界を感じ、支援の基となる政策に関わるため国連職員を志した久保さん。現場重視の姿勢は変わらない。絶対的な正義の存在を信じる西欧的な考えと違い、一つ一つの事象を尊重する「八百万(やおよろず)の神」の感覚があるからではないかと感じる。
 「基本的には現場と政策決定の両方で働きかけることが必要」と久保さんは指摘する。欧米流の援助では事前に決めた原則が先行しがちだが、現場で共に考え働く日本のやり方の方が効果的なこともあるからだ。「現場に関わり続け、得た知見で国際社会の議論に参加したい」と力を込めた。    (宮平麻里子)

特別企画 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly