【青年の誓い85年】1つの国家1つの民族1つの言語 建国の原点振り返る

 85年前の10月28日、第2回青年会議に集まった青年らが「一つの国家、一つの民族、一つの言語」をうたう「青年の誓い」を宣誓した。オランダ、日本の植民地支配を経て、民族も言葉も異なる多民族が一つの国家として独立する原点となった。現在も毎年この時期、各地で記念行事が開かれ、統一国家の意義を再認識する。インドネシア大学のアンハル・ゴンゴン教授(歴史学)は地方格差を是正し、建国当時の目標に立ち戻るべきだと語った。

■域内交易の共通語
 今日の共通語「インドネシア語」は青年の誓いの宣誓文の中に歴史上初めて登場する。バタビア(現在のジャカルタ)市内に集まった独立運動家がマレー半島やスマトラ島などを中心にリンガ・フランカ(交易語)として使用されていたムラユ語を元にインドネシア語を新たに創り出し、共通語として使用することを誓った。
 蘭植民地時代のインドネシアは「ヒンディア・ブランダ(蘭領インド)」と呼ばれ、「インドネシア」という地域名も一般的ではなかった。蘭領から独立し、「ブランダ」の名前を国名から取りたいが、「インド」だけでは大陸インドと区別がつかない。そう考えたムハンマド・ハッタらが「インドネシア(インドの島々)」の呼称を演説などに採り入れ、一般に普及した。
 アンハル氏は「インドネシアは(かつてスマトラ島やジャワ島を支配した)スリウィジャヤ王国やマジャパヒト王国の権威を引き継ぐのではなく、新しい『インドネシア民族・国家・言語』という概念の下に人々が団結し、独立を果たした」と話す。その独立の精神が「青年の誓い」に結実したのだという。
■ジャワ語対ムラユ語
 しかし、「青年の誓い」の宣誓内容を巡る議論には曲折があった。1926年に開かれた第1回青年会議で「一つの民族、一つの国家」を目指すことまでは決定したが、言語を巡って意見が対立した。会議出席者の多数派を占めたジャワ出身者がジャワ語を共通語にするよう求めたのに対し、スマトラ島出身者を代表するムハンマド・ヤミンらはムラユ語の共通語化を主張。第1回会議は議論が膠着したまま閉会した。
 この2年後、一転してインドネシア語を共通語とする結論が出た背景にはスカルノの動きがあったとアンハル氏は分析する。
 26〜27年、インドネシア共産党(PKI)が武装蜂起したが、共産党単独での行動はすぐに植民地政府によって鎮圧される。蜂起の失敗を目の当たりにしたスカルノは民族主義者や共産主義者、イスラム主義者など国内の諸勢力を糾合して独立運動を進める必要があると痛感したという。当時、すでに巧みな弁舌で影響力を広げていたスカルノはまず民族主義者を団結させようと、第2回青年会議の開催を画策。妥協案を模索し、「青年の誓い」にこぎ着けた。

■学校教育の新世代
 第2回青年会議にはジャワをはじめ、スマトラ、セルベス(スラウェシ)、アンボンなど各地から青年らが集まった。彼ら「青年」はただの若者ではない。
 ベネディクト・アンダーソンは主著「想像の共同体」で、「世界中の独立運動に登場する青年は学校教育を受けた最初の世代の若者」と論じている。宗主国が植民地経営に必要な現地人エリートを養成する過程で、教育を受けた若者が民族意識に目覚めたという説だ。インドネシアやマレーシア、ミャンマー、トルコで独立運動に身を投じた人々が青年を名乗った。
 アンハル氏もこの説に賛成し、インドネシアの団結を誓った青年はバタビアなどで高等教育を受けたエリート層の若者だと話す。彼らは西欧式の学校教育を受けるなかで、民族主義や自由主義を学び、植民地支配に疑問を持つようになった。

■不均衡で独立運動
 アンハル氏は「宣誓から85年を経た今もインドネシアは青年の誓いの精神を実現できていない」と話す。アチェやパプアの分離独立運動を挙げ、利益分配の問題を指摘する。経済が発展し、インフラ整備も進むジャワ島と他の島々との間に横たわる利益分配の不均衡が独立運動の主な原因だという。また、中央から地方まで官僚組織全体に汚職がはびこる現状を「国家の構造だけを見れば、インドネシアはすでに崩壊している」と糾弾する。
 それでもインドネシアが一体性を維持できるのは人々が青年の誓いの精神を持ち続けているからだという。「私はブギス人だが、自らをインドネシア人だと考えている。多民族が団結してきたインドネシアの歴史の重みを知っているからだ」と話す。 (田村隼哉、写真も)

 ◇青年の誓い
 蘭植民地時代の1928年10月28日、バタビアで開催された第2回青年会議で議決された。インドネシア人が「一つの国家・郷土、一つの民族、一つの言語」の3点を共有することを誓い、インドネシアの民族意識を構築した。

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