【人と世界 manusia dan dunia】密集地区の建築モデルを  千葉大の吉方さんら

 緑色のトラス構造の屋根からぼんやりと光が落ちる中央ジャカルタのパサール・チキニ。道幅2メートルもない狭い路地の両側に米や野菜が売られている商店を抜けると、日本の大学生とインドネシア大学の学生、地域住民がコンクリートをバケツリレーしている。
 「今、小屋組を作っているところです」。千葉大学工学部建築学科修士課程の吉方祐樹さんをリーダーに、上田一樹さん、澤井源太さんの3人がパサールに住み込み、延べ床面積25平米、2階建ての小さな図書館の建設を進めている。都市化が進み、人口が密集するチキニで快適に過ごすための建築モデルを考案し、7月初旬の躯体(くたい)の竣工を目指す。
 吉方さんらは、都市デザインを研究する千葉大の岡部明子研究室に所属。インドネシア大学と住環境改善プロジェクトをチキニで進めていた岡部准教授から、ジャカルタで設計から施工までできるプロジェクトがあると聞かされた。「日本では学生のうちに最初から最後まで建設することはまずできない」と「即決」。資金はインドネシア大学と、岡部准教授がプロジェクトに参加する総合地球環境学研究所から集め、2012年11月から住み込み、設計を開始した。
 敷地はチキニのRT(隣組)7で、5年ほど前に発生した火災現場の住居跡。チキニは火災の発生現場になった住民はRT内すべての住民からの同意が得られなければ、元の家に戻ってこられないという地元の決まりがあり、実際には戻ってくるのは不可能。敷地はごみ置き場として放置されていた。
 吉方さんらは建築の用途を決定するために、11月から住民の生活の調査を開始した。チキニは子どもが多く、夕方には塾で勉強していることに注目。個人のボランティアで場所が提供され、いつでも自由に使えるわけではないことが分かった。3人は図書館を建設し、自由に勉強したり、おしゃべりしたりできる空間を設計することに決めた。

■光と風が通る建築に
 今回の設計の敷地に限らず、チキニは一人あたりの土地がとにかく狭い。住民らは隣の家と壁を共有し、住居内は暗く、風が通らない。住民らが現在の生活をどれほど満足しているのか疑問に感じた3人は、12月に実態を知るためアンケートを実施。子ども、男性、女性を集め、地域で気持ちよく過ごせる場所、過ごせない場所のほか、家の中の好きなところ、嫌いなところを挙げてもらった。暗くて湿度が高いところが嫌いで、夕方に涼しい風が通る場所が好きなど、自分たちの感覚と近かったという。太陽高度が高いインドネシアは少しの隙間を作るだけで、光を室内に取り込める。図書館は1階と2階を結ぶ吹き抜けを作り、自然光や空気が循環する空間を確保する案を提案した。
 さらにインドネシアの建築の構造の弱さも改善しようと試みている。カンプンにある住居は柱が細く、煉瓦の壁も一緒になって構造体になっているものが多い。ジャカルタでは地震が少ないために、柱が細くても倒壊する恐れは少ないが、壁が構造体にもなっているために、開口部を作りづらいなど、不利な点もある。さらに鉄筋とコンクリート表面の厚みがほとんどなく、鉄筋がむき出しで、建築の寿命も短くなってしまう。3人は日本やインドネシアの建築構造家に相談して、通常のカンプンにある住居よりも柱を太く、コンクリートを厚くした。
 建設開始当初は、住民同士のいざこざに巻き込まれ、朝起きたら用意した資材がすべて川に投げ捨てられたこともあった。けれど今は子どもから大人まで、日曜日には家族で手伝ってくれるようになった。
 現在の課題は本などの「中身」だ。地域の学校を訪問するほか、今後は政府に掛け合い、寄付を募ることも検討する。
 吉方さんの研究テーマは「高密度居住区での都市ビジョン」。今回の建設を通して、住宅密集地域での居住モデルの提案を目指している。「道路幅が狭い地域だからこそ、住民のコミュニケーションが保たれており、都心部でもどこか『いい雰囲気』がある」と話す。道路を拡幅して風や光を確保するのではなく、現在の密度を維持したまま、いかに豊かな住空間を作れるか。吉方さんは「今回の図書館が、ジャカルタならではの建築モデルを確立する一歩になる」と自信を持っている。(高橋佳久、写真も)

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