フィードバック

 先日職場で360度人事評価(同僚や部下からのフィードバックを含めた多面的な人事評価)の運用方法について議論していた際に、あるインドネシア人の同僚から「インドネシア人はストレートに評価を伝えるのはほんと苦手だから」とやや自嘲気味なコメントがあり、一同苦笑しながら一斉にうなずくという場面があった。つい私も「日本人も一緒だけどね」と応じたが、この発言の主が欧米金融機関に長年勤めてきた同僚からのものだったので、やや新鮮にも感じた。それぞれの人のものの見方が、所属する組織のカルチャーに左右されるのか、それとも国民性による部分が大きいのか、これは時と場合にもよるかもしれない。
 そもそもあまりにも表面的だったり、曖昧すぎる内容のフィードバックは評価自体の意味を減じさせることは明らかだ。ただ、インドネシア人でも日本人でも、ネガティブなフィードバックをする際は、ある程度関係性ができ上がった相手でも、言葉選びも含めてかなり慎重になる、ということが多くあるだろう。
 一般的にストレートな表現を好むと言われる欧米の人たちの中でも、アメリカ人には意外と間接的な伝え方を好む人が多い。特に相手に厳しいことを言わなくてはならない場面では、これはサンドイッチ・アプローチなどと言われるが、ポジティブなコメントの間にネガティブな内容を挟んで話す、といったやり方が多用される。ただこれも、サンドイッチのパンの部分が分厚過ぎると相手に本意が伝わらずかえって逆効果、という半分ジョークのようなことも言われ、最近は少なくとも人事評価の文脈においては必ずしもよいアプローチとはされていない。
 このようなコミュニケーションのスタイルも含めて、人々の行動パターンを国毎に比較するような研究も近年増えてきている。最近のものでビジネスの観点でも実用性があると評価されているのは仏INSEADのエリン・メイヤー教授(著作が日本でも話題になったので読まれた方もいるかもしれない)によるフレームワークで、いくつかの評価軸(例えば、他人を説得するときに原理原則を主張するかそれとも実効性を重視するのか、意思決定においてどの程度コンセンサスを重視するか等)を設定して、国毎にそれぞれの程度をマッピングしたものだ。
 これらの評価軸の中には「ネガティブな評価をどう伝えるか」という項目もあり、これによると日本とインドネシアは、世界25カ国で最も間接的なアプローチを好む国々に位置する。中国や韓国も間接的アプローチに寄っているが日本やインドネシアほどではない。米国や英国はほぼ中間地点に属していて、逆に直接的アプローチを最も好む国にはドイツやフランス、オランダといった国々が並ぶ。調和を重んじるアジアと意見の違いを所与のものとする欧米との違いが現れた結果かもしれないが、一方、それぞれの地域内でも相応に差異があることは注目に値する。
 国民性に抗うといったような大それたことではなく、その国民性を相対的に理解した上で、それぞれの組織が各々の目的をサポートできるようなカルチャーを創っていくことが理想だろう。その意味で、「間接的アプローチ」の最たる国にいることを認識しつつ、コミュニケーションの頻度やタイミングなどを意識しながらフィードバックの質を上げていく、といったようなことが大事なのではないかと感じている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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