線路に寝そべり腰痛治療 弱電流れ、体がピクピク コタ―タンゲラン線 ジャカルタ庶民が大発見

 大勢の若者やお年寄りが西ジャカルタの国鉄タンゲラン線のレールを枕にして寝転がっていた。両足をもう一方のレールの上に乗せ、「ああ気持ちがいい」「腰痛が治るよ」「マッサージより効果がある」「あんたも試してみなよ」と私に向かって叫ぶ。信号機を点滅させる十ボルトほどの直流の弱電が、足から首へと流れ、バッタのように体をピクピクさせ、血流を良くして腰の痛みを取り除こうという、ジャカルタの下町で大人気の「鉄路の電気セラピー」だ。(高橋佳久、写真も)

 近所に住むウスップさん(66)は1年ほど前、いつものようにはだしで線路を歩いていたとき、全身に「ビリビリ」という軽いショックを感じた。平行するレールにまたがるように体を横たえてみると、今度は腰のあたりから全身がピクピク。腰痛持ちのウスップさんは「これは強烈なマッサージ。病院にもある電気セラピーではないか」と大発見。鉄路の電気セラピーの常連になった。
 「日曜日には100人以上が集まり、糖尿病や痛風、コレステロール値を下げたい人が『通院』している。1日1時間、寝転がっていれば、腰痛がすっかりなくなるよ」とウスップさん。
 陽が少し傾きかけた午後四時を過ぎたころ、ラワ・ブアヤ駅を訪れると、ホームから約五十メートル離れた線路上に周辺住民が集まり、線路に寝そべり始めた。
 「濡らした布を使うと電気が強くなって気持ちいいよ」とフィアン君(12)。線路上には20人ほどの人。日傘で日除けをしながら寝る人や大きめのタオルを掛けた人が体をけいれんさせながら横になっていた。
 1年前から通っているというムルダニさん(61)は 十数年前から足が腫れ上がり、三度手術を行ったが治らず、この電気セラピーのうわさを聞いて、毎日通うようになった。「医者からは食事制限や禁煙を言われるけど、ここでは自由だ。無料で足の腫れも引き、素晴らしい『病院』だ」と満足そうだ。
 ウスップさんは「初めは駅員に怒られたが、今は黙認されているので、ぜひ日本人にも試してもらいたい」と語った。
 誘いに乗り、腰痛持ちの私もレールを枕に寝転がってみた。両足がレールに触れた瞬間、日本の接骨院の電気マッサージよりも強い電流が体全体に走った。「治療後」は少し体が軽くなったように感じたが、体がけいれんするような痛みに、通い続けたいとは思わなかった。周りの人々は電車が目の前を通り過ぎる際にも意に介さず気持ち良さそうに寝転がっていた。午後五時に近づき、少し涼しくなると、さらに多くの庶民が線路に寝そべり、世間話を始めた。「電気セラピー」は健康のためだけでなく、庶民のコミュニケーションの場にもなっているようだ。
 インドネシア国鉄によると、レールには、信号機の点滅を判断するための弱電が流れている。列車が決められた区間上にいると、その電流が車輪と車軸を通じて流れ、レール上の電流を検知する閉塞方式で、電流を検知すると、赤信号を表示させ、後続の列車を停車させるという仕組みになっている。
 ラワ・ブアヤ駅の駅員は「列車が来たら危険だし、法律で線路に進入することは禁止されている。列車の往来を妨害する行為なので、何度か警告したのだが、腰痛治療の人が増えるばかり」と、人気のレール・セラピーに頭を抱えている。

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