「進まないけど憎めない」 春日原大樹さん ジェトロ・ジャカルタ 事務所前所長

 日本貿易振興機構(ジェトロ)ジャカルタ事務所の所長を務めた春日原大樹さん(51)が帰国した。腰が低く丁寧な立ち居振る舞いと、癒やし感あふれる穏やかな笑顔で、日本とインドネシアの経済の第一線を分析。「明けない夜はない」と遅々としてしか進まない状況にも前向きなまなざしを向けるとともに、「いつまでもポテンシャル(潜在力)の話では、他国のスピードに取り残される。形にする時」と、インドネシアのカウンターパートにエールを送り続けた。多忙な時間の中、2年10カ月の駐在を振り返った。

 春日原さんは2度目のインドネシア赴任。前回は、ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)立ち上げに関わる業務だったが、今回はジェトロの所長として、政府関係者との折衝や交渉、具申などの調整事項も多かった。
 何を考えこのようなことを言うのか。どうしてこれが響かないのか。本音はどこにあるのかなど、場面場面で背景を考慮しながら、異なる立場や別の視点を心がけるようになったという。「出てくる言葉だけを字面通りに受け取っていたら、何も動かずコミュニケーションに失敗する。何を意図しているのかを考え抜いて行動する」。それを強く意識させられたのが、今回の赴任だったと話す。

■心残り

 「ことしは日本とインドネシア国交樹立60周年の節目、各行事が本格化する中、日本に戻るのは申し訳なく心苦しい」と語る春日原さん。オンライン・シングル・サブミッション(OSS)やネガティブリストの改定など、多くの変革がこれから始まろうとしている。それを見られないのが心残りと話す。
 特に、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の訪日の現場にいたかったと語る。「大統領が何を考え、いま何を進めようとしているのか、大統領の口から率直に語られる機会があれば、日本での印象、受け止め方は大きく異なってくる。大統領は規制を減らし手続きをスムーズに、外国人もちゃんと働けるようにして適正な形で投資を呼び込んでいきたいという方針。しかし、なかなか政府省庁間で議論が進まず改革は途上にあるのが現状。そのあたりが少しでも伝われば、日イ経済界の理解が進むはず」と説明する。

■田んぼでもがく

 春日原さんにとって、インドネシアでの生活は、スムーズにいかないが、そこに悪意を感じず、むしろ善意があふれていている状況だったと言う。「まるで生温かい田んぼの中を歩くようなもので、うまく進まずに転びそうになって悪戦苦闘しているが、凍え死ぬことはない。そんな日常だった」と目を細める。
 この歳で、インドネシアに2回赴任した。正直、苦労したこともあるが憎めない人たちで、どこかで懐かしい感じのするゆったりとした時間の流れとねっとりとした人間関係があった。これからもいろいろな意味でインドネシアと関わっていくと思う。わずらわしいと思うこともあったが、この人間関係の密着感に魅せられた一人ですと笑顔を見せた。 (太田勉、写真も)

 かすがはら・だいき 東大法学部卒。89年通産省(現経産省)入省。国際標準、電力、鉄鋼などの実務を担当。07~12年総務部長として国際機関・東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA、ジャカルタ)の設立、運営を担当。経産省アジア大洋州課長を経て、15年9月から18年7月までジェトロジャカルタ事務所所長。18年8月より経産省通商政策局通商交渉官。51歳。東京都小平市出身。

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