帰らない、帰れない 少数民族ロヒンギャ
「できれば、このままここで暮らしたい」。9日、中央ジャカルタの法律擁護協会(LBH)事務所で、ミャンマーの少数民族ロヒンギャのムハマド・カシム・ビン・アブドゥラさん(25)はつぶやいた。
難民としての受け入れを求め、カシムさんの一家18人は30年暮らしたマレーシアから豪州を目指した。だが、案内を約束した男はジャカルタで姿を消し、所持金が尽きた。豪州行きのめどは立たず、事務所での生活を続ける。
カシムさんの両親は1980年代、仏教徒との対立をきっかけにミャンマーを出た。カシムさんはマレーシアで生まれ、故郷を知らない。マレーシアでは国連高等弁務官事務所(UNHCR)への難民登録を済ませた。だが、11年が過ぎても、第三国移住はかなわなかった。
ムスリムが多いインドネシアではロヒンギャへの同情が強い。だが、インドネシアは難民条約を批准しておらず、難民を公式には受け入れない。国内の人権団体「アクシ・チュパット・タンガップ(ACT)」のスチ・プトリさん(28)は「条約を批准していなくても、人道的な支援するのは私たちの義務だ」と話す。
ミャンマーでは多数を占める仏教徒とロヒンギャの衝突が続く。ロヒンギャ排斥運動があるとの報道もある。カシムさんは「国に帰りたくないのではなく、恐くて帰れない。帰るくらいなら、子どもたちを殺してから死ぬ」と話した。(上松亮介、写真も)
◇ロヒンギャ
イスラムを信仰し、ミャンマー西部ラカイン州のバングラデシュ国境付近に住む。約80万人いるとされるが、無国籍として扱われきた。UNHCRによると、昨年からの仏教徒住民との衝突で約14万人が避難民になり、インドネシアでも各地で収容されている。