民主化は「踊り場」に きょう、スハルト退陣から15年

 スハルト大統領退陣から、21日で15年を迎える。「レフォルマシ(改革)」を旗印に、民主化時代への第一歩を踏み出し、市民が自由をおう歌するようになったインドネシア。しかし、当時の経済は壊滅的で、建国時からパンチャシラ(国家5原則)を紐帯として多民族・多宗教の共生を図ってきた国家が、バラバラに分裂する「バルカン化」の道をたどりかねないとの危惧も上がった。その中で、インドネシアは相次ぐ爆弾テロや地震・津波の大災害など幾多の苦難を乗り越え、ハビビ、グス・ドゥル、メガワティ、ユドヨノと四つの政権を経て、世界最大のムスリム人口を有する新興国の雄として世界に名を響かせるまでになった。一方、独裁体制から民主化へ一気に舵を切った反動もあり、現状を無視した賃上げ要求など国民の権利意識は肥大化し、地方の活性化の原動力になった地方分権も反面で利権構造を細分化させ、急速な経済成長は貧富格差の拡大を生み出すなど多くの課題も噴出。歴史的にSARA(民族、宗教、人種、社会集団)に触れることがタブー視されてきた社会で、宗教が絡んだ少数派の迫害や地方の住民紛争も頻発するなど、民主化の歩みを脅かしかねない不穏な動きも見え始めてきた。グローバル化の波や対テロ戦争、中国やインドを筆頭とした新興国の台頭などを背景に、世界の枠組みが大きく変わろうとする中、今も行き先を模索するインドネシアの民主化は「踊り場」の局面を迎えている。

 「インドネシア共和国大統領としての私の職務を辞することを表明する決意をした」。1998年5月21日午前9時すぎ、ジャカルタの大統領宮殿で「開発の父」スハルト大統領が声明を発表した。32年間にわたる翼賛体制を敷いたスハルト政権終えんの瞬間だった。
 副大統領から昇格したハビビ大統領は、報道や言論の自由、結社の自由を認め、翌年の総選挙や地方分権化に向けた法令を整備し、東ティモール独立を問う住民投票の実施を決断するなど、矢継ぎ早に制度改革に着手した。しかし学生たちによる政権打倒デモは収まらず、「スハルトの傀儡(かいらい)」とのイメージを払拭しきれずに続投を断念。自由で公正な雰囲気の中で実施された1999年6月の総選挙、10月の国民協議会(MPR)での投票を経て、アブドゥルラフマン・ワヒド(グス・ドゥル)大統領が誕生した。
 国軍が国防と政治を担う「二重機能」の解消、スハルト一族の蓄財を頂点とするKKN(汚職・癒着・縁故主義)の撲滅など改革は待ったなし。アチェやパプアの分離・独立運動も再燃する中、言論統制で悪名の高かった情報省の廃止や華人文化の開放などを実現した。しかし、自らの関与が疑われた汚職事件で罷免。「民主化のヒロイン」として、99年の総選挙で圧倒的な支持を獲得したが、政界の権謀術数で涙を飲んだメガワティ副大統領が2001年7月、大統領に昇格した。
 ナショナリズムを全面に、IMF(国際通貨基金)改革支援プログラムからの「卒業」などを打ち出し、強大な権限が付与された汚職撲滅委員会(KPK)も発足させたが、建国以来初となる04年の直接大統領選挙では再選を果たせず、ユドヨノ大統領が誕生。就任直後のスマトラ沖地震・津波、原油価格の急騰、08年のリーマンショックといった危機を切り抜け、09年には再選を果たした。
 スハルト政権崩壊の遠因ともなったタイを震源地とする97年のアジア通貨危機がインドネシアに波及して以降、「失われた10年」を経て、インドネシア経済は巡航速度に乗り、国民は好景気を享受。消費ブームに沸く巨大市場をめがけ、外資も続々と参入している。
 G20(主要20カ国・地域)サミットなど外交の舞台でも存在感を高め、先行きは順調に見えたが、民主党内で内紛が勃発し、大統領周辺の汚職問題も顕在化。スハルト時代から尾を引く石油燃料値上げ問題も道半ばだ。任期が残り1年程度となり、レームダック(死に体)化したとの意見も上がる。慎重居士のユドヨノ大統領へのアンチテーゼとして、元陸軍戦略予備軍(コストラッド)司令官のプラボウォ・スビアント氏を筆頭とする強い指導者を求める声も高まっている。
 一方、市民に根ざした政治を標榜するジョコウィ氏(ジャカルタ特別州知事)など、新たなタイプの指導者も登場。庶民が当たり前のように携帯電話でフェイスブックを使いこなすなど、情報の入手や発信が容易になった時代に、選挙活動のあり方も大きく変ぼうを遂げている。
 スハルト政権崩壊後の憲法改正で3選が禁止されたため、来年の大統領選では、10年の安定政権を築いた「ユドヨノ以降」の行方がインドネシアの民主化の将来を占う一つの試金石となる。(じゃかるた新聞編集長・上野太郎)

暴動から独裁政権退陣へ 当時の指導者に汚職疑惑
【揺れる民主化】1部社会 スハルト懐かしむ(1) 心地よかったあのころ

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