主張する退役軍人たち

 プラボウォ政権の発足から半年が経過したいま、ギブラン副大統領に対する政治的圧力が強まっている。発端は先月17日、退役軍人らが、プラボウォに宛てた声明文だ。そこには8項目の要求が盛り込まれており、その一つがギブランの「弾劾」であった。声明には332人の退役将校が署名し、元副大統領のトリ・ストリスノも賛意を示したことで、この動きは一躍注目を集めた。
 なぜ彼らはギブランの弾劾を訴えるのか。先の大統領選で、恣意的に立候補条件が緩和されて出馬可能になったギブランには、国家リーダーとして正統性はなく、緊急時に大統領の代行を果たす力量もないと主張する。
 彼らの懸念は一理あるとしても、「弾劾せよ」とまで求めるのは、あまりに急進的かつ挑発的な要求である。そもそも、この声明を出したのは、正規の退役軍人会ではなく、非公式な有志グループであり、その主張が退役軍人全体の総意を代表しているわけではない。それでもなお、このような公然たる弾劾要求は極めて異例であり、背後にある政治力学を注視する必要がある。
 この運動の中核には、ジョコウィ前政権下で冷遇されたと感じている一部の退役将校たちがいる。実際、リーダー格の一人は、武器密輸の容疑で逮捕され、国家反逆罪に問われた退役少将だ。彼らは、共通してジョコウィへの反感が強く、政権交代を機に、ジョコウィ叩きの意欲を高めている。ジョコウィの息子のギブランを標的にするのは、彼らの理にかなっている。
また、この退役軍人グループは、ジョコウィに恨みがある他の勢力と共闘して、政治影響力を強めようとしている。ジョコウィ政権下で強制解散された強硬派団体「イスラム擁護戦線(FPI)」や、一部の左派系知識人などとの連帯を進めている。それぞれ同床異夢ではあるものの、「国に尽くした退役軍人の声を尊重せよ」という名目のもとで、運動の全国展開に乗り出している。
 では実際に、副大統領の弾劾など可能なのか。手続き的にも政治的にも極めて困難である。政治混乱と政権の不安定化も免れない。プラボウォも、そのことは良くわかっている。しかし彼は、退役軍人の要求を公然と否定することなく、「高い志」と尊重し、「内容を精査する」と応じた。
なぜか。プラボウォにとって、退役軍人たちのギブラン攻撃は、ジョコウィとの関係で政治的優位性を高める利用価値があるからだ。「ギブランを守っているのは自分である」との構図を印象づけ、4年後の大統領選を視野に入れたジョコウィ親子の政治的影響力を牽制しようとしている。
 加えて、プラボウォ側近たちは、ジョコウィやギブランの問題に世論が集中し続けることで、政権の経済政策や法改正をめぐる社会批判が分散されるという副次的効果への期待もある。それが意図的に煽られている可能性を、ジョコウィ周辺も疑っている。
 このように、プラボウォとジョコウィの神経戦は、退役軍人やイスラム勢力などを巻き込む複雑な様相を呈している。今後、プラボウォが反ジョコウィ勢力とどのような距離を取り、あるいは政治的に活用していくのか。政権の支持率と連動して、その戦略は変容していくだろう。次なる展開から目が離せない。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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