体験報告・開票現場の悲鳴 大統領選挙 過労死生む24時間労働
世界最大の直接選挙となった2月の大統領選と総選挙(議会選)。我々は民主国家として誇るべき大業を成し遂げたが、それは多くの犠牲を伴うものでもあった。開票作業員の死者は100人を超え、罹患したのも4000人に迫る——。先進国ではおよそ考えられない舞台裏の実態を、集計責任者を務めた記者の実体験からリポートする。
2月14日に投票された両選挙では、まず各地の投票運営委員会(KPPS)に委託された作業メンバーが開票。これを中央ジャカルタの総選挙委員会(KPU=中央選管)が集計して20日、最終的な得票数として発表した。
公正かつ正確な選挙結果を導き出すため、作業メンバーは重責を果たす必要がある。それは国民の義務であり、名誉でもある。ただ、協力を打診された時、私は前回の2019年選挙を思い出さざるを得なかった。死者894人。葛藤の末、西ジャカルタパルメラ郡の投票所(TPS)で、KPPSの責任者という役割を引き受けた。
作業メンバーの選考は昨年12月20日に始まり、審査を踏まえて574万2127人に絞り込まれた。審査は多くの犠牲者を出した前回選挙の反省を踏まえ、厳格化されていた。前回はKTP(住民登録証)の提出で手続きは終わったが、今回は17〜55歳という年齢制限が加わった。学歴は高卒以上。血糖値、血圧、コレステロールについて医療機関による検査が義務付けられた。
作業チームは警備担当2人を含む9人で構成。最初の仕事は開票作業に必要なテント、開票ボード、スピーカーなどのレンタルのほか、投票当日の食事の手配だった。予算は450万ルピア。やり繰りは各投票所に任されている。作業メンバーの報酬は1人110万ルピア。チーム責任者は120万ルピアだった。
投票3日前、投票の場所と時間などを記した通知書を有権者に配付した。すべて手作業。隣人との関係は希薄なエリアのため、本人への手渡しが必要だが、在宅でもすぐに応じる世帯はまれで半日かけて会えるのは数人の日も。体力と忍耐の作業だった。
投票所のテントを張り終えたのは投票当日の未明だが、なんと早朝から大雨。洪水で投票所は腰まで水に浸かり、私たちは投票箱と投票用紙を担ぎ上げて水が引くのを待った。
投票は午前7時〜午後1時。なんとか水は引いたが、有権者は約300人いて投票が途切れることはない。飲まず食わずで立ちっぱなしの約5時間を強いられたが、息つく暇もなく最大責務の開票作業が始まった。
数えるのは大統領選など1200枚の投票用紙。数が合わなければ3回の照合のやり直し。ゴールが見えたのは翌朝午前3時半だった。
通知書配りやテント張りなど事前準備に始まり、本番の開票に伴う作業は24時間を超えてノンストップで続いた。しかも肉体的な疲労に精神的プレッシャーが加わり、心身共に極限状態に追い込まれた。公正な選挙は民主主義の根幹だが、その内情は過労死が続出するなど課題は多い。(ユリアニ・トゥリ・アストゥティ、写真も)