24年選挙を振り返って

 今月20日、24年選挙に関する正式な開票結果が発表された。大方の予想通り、プラボウォ候補が約9千6百万票(得票率58%)、アニス候補が約4千万票(24%)、ガンジャル候補が約2千7百万票(16%)という結果で、プラボウォが次期大統領に選ばれた。この選挙は、インドネシアにとって何を意味するのか。選挙の総括をしてみたい。
 選挙そのものに関しては、ユスフ・カラ前副大統領の言葉が象徴的である。彼は、今回の選挙を「これまでで最悪」と評価した。その理由は、政府によるプラボウォ支持と、他候補陣営に対する脅迫だと訴える。
 その評価は正当であろう。ジョコウィ大統領は、プラボウォの大勝を実現すべく、息子のギブランを副大統領候補にし、草の根のジョコウィ信奉者たちをプラボウォ支持に導いた。大統領の中立性は低く、その結果、中央と地方で、政府や警察が大統領の意を汲んで、対抗馬の選挙戦を妨害してきた。過去の大統領選で、現役大統領が後継者のために選挙介入することはなかった。その意味で異例の展開であり、選挙の正当性の低下と民主主義の後退が懸念されよう。
 その懸念は、プラボウォという個人的な要因にも助長されている。気が短く怒りっぽい性格はよく知られているし、過去の言動癖からも、彼が民主主義や言論の自由や法の支配といった価値に関心薄なこともわかる。フィリピンのドゥテルテ前大統領や、「アルゼンチンのトランプ」ことミレイ大統領のような下品で厚かましい性格でないのは救いだが、三者には右翼ポピュリストとしての類似性があり、民主的で正当な政府批判に対してどういう反応をするかは未知数である。
 その危うさを見事に隠したのが、今回の選挙だった。プラボウォは、過去20年ずっと大統領選挙に挑んできた。04年選挙では、ゴルカル党から出馬を試みたが党内選挙で負けた。09年は、闘争民主党のメガワティ党首の副大統領候補となったが、負けた。14年と19年はジョコウィと戦って負けた。いずれの選挙も、元軍人の決断力とナショナリズムを売りにした。特に対ジョコウィでは、プーチンばりの「ストロングマン」を演出した。
 その歴史を知る人たちから見れば、今回のプラボウォは別人だ。生成AIでアニメ化された彼のアバターがダンスをし、それをTikTokでバズらせるSNS選挙戦は、有権者の約6割を占める若年層にターゲットを絞る戦略だった。過去の対ジョコウィ戦で行った、憎悪とヘイトと偽情報による「分断選挙」と真逆な、愉快でハッピーで政治色の薄いキャンペーンに徹した。
 彼は人が変わったのか。そんなことはありえない。ただ、彼の過去や性格がどうであれ、大統領の国家運営は、もっと構造的な要因によって規定される。その理解が重要であろう。
 プラボウォは、今後インドネシアの民主主義を破壊し、専制主義の道を歩もうとするのか。欧米メディアでは、そういう懸念も示されてきた。しかし、構造を見れば、いかにそれが難しいことかすぐに分かる。
 大統領が変わっても、政財界のエリート地図はほとんど変わらない。彼らは、政治的な競争を通じて、様々な既得権益を獲得してきた。民主主義の停止は、彼らから競争を奪うことに他ならず、誰もそれを望んではいない。仮にプラボウォが血迷っても、彼らは全力で抵抗するであろう。インドネシアの民主主義は弱いようで強い。これから、その強さを見せる時がくる。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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