ペンジョールが彩るバリ島 盆と正月が一緒に来た! ニュピ
「盆と正月が一緒に来たよう」。嬉しいことがいくつも重なること、非常に忙しいことの例えとするこのことわざが、今年3月のバリで現実のものになった。11日は、バリ・ヒンドゥー教徒が静粛に祈りをささげるサカ暦の新年「ニュピ」。この日は労働、外出、殺生、火(明かり)を灯すことを禁じ、港や空港も閉鎖する。全島の沈黙で浮かび上がる満点の星空を期待し、バリ島へ向かった。
ニュピを控えた2月28日、「善が悪に打ち勝った」ことを祝う210日に1度の祭礼「ガルンガン」がやってきた。地上に舞い戻る先祖の霊を迎える日でもあり、日本でいう迎え盆にあたるそう。祭礼は1週間ほど続き、民家の軒先には竹の棒に稲穂や花を付けたのぼり「ペンジョール」がずらりと並んで、美しいバリを彩る。そして、3月9日の「クニンガン(送り盆)」で一連の祭礼が終了する。
この祭礼とは別にニュピ前夜には、悪霊を退治する張りぼて人形「オゴオゴ」のパレードが行われる。しかし、これだけでは終わらず、ニュピ明け12日にはイスラム教徒がラマダン(断食月)入り。宗教行事の〝大渋滞〟となり、島民のはやる気持ちがひしひしと伝わってきた。
当日は、バドゥン県ジンバラン地区でオゴオゴパレードを鑑賞。村人によるとパレードのピークは午後7時以降。にもかかわらず、その日は朝から交通規制が始まる。
午後6時ごろに大雨が降り、開始時間が読めなくなった。雨が降りしきる中、バリ伝統の自警団(プチャラン)メンバー、イマデ・ナルジャさんと暇を潰す。「君、オゴオゴが1体いくらか知ってる? 2000万ルピアだよ」とにんまり。費用は地方自治体から各村へ配分されるという。予期せぬ金額に驚愕し、やはりバリ・ヒンドゥーはお金がかかるなあと心で呟いた。
担ぎ手は17~25歳の未婚の男女。何か特別な訳があるのかと理由を聞くと「祭礼の準備に忙しいから、暇な独身者が担ぐだけ。それでなくても今年は他の祭礼で過密だよ」と笑った。少子化のあおりか、祭り離れか。日本は年々、後継者不足が深刻化しているというのに、この国の若者パワーは凄まじい。
「バリに何度も遊びに来た日本の友人がいたんだ。津波に飲まれて亡くなった」。突然、イマデさんは思い出をぽつりと話し始めた。偶然にも今年のニュピは11日。東日本大震災から丸13年が経とうとしていた。遠く離れた地からも故人を偲ぶ人がいるのかと、インドネシア人の柔らかな心の優しさに改めて感謝した。
雨が和らぎ、1時間遅れでオゴオゴが出陣。松明を灯して行進する女性たち。その後ろを巨大なオゴオゴが左右に揺れながら進む。時には悪霊退治をしているかのように、くるりと1周してみせる団体もあった。
バリ島到着日から3日間、夜になれば必ず降り続いた雨は、不思議なことに静寂の日を迎えるとぴたりと泣き止んだ。しかし、空模様は曇天で、星は無数に瞬くものの雲が邪魔をして輝きに欠ける。それでも私は、ニュピと言えば深夜1時に見上げたこの星空を思い出すだろうと思った。(バリ島=青山桃花、写真も)