雨を五感で味わうウブド 「もう、自然を壊さないで」 バリ島中部
晴天に輝く透き通る海。青々とした棚田や壮大な山々。道を行けばピンクや白の可愛らしいお花も、ヤシの葉や果物、花を使用したチャナン(供物)もあらゆる場所で見かける。バリ島のベストシーズンは言わずもがな、乾期だろう。しかし、雨を五感で味わいながら佇む緑もまた一興だ。自然のゆくまま雨に負けず、雨期のバリ島中部ウブドを散策した。
心配していた雨をよそに、広がる気持ちの良い青空に目を細める。ドライバーが放った「今日のキンタマーニ高原は絶景だろう」との一言で本日の行き先を決定する。
山の天候は移り気だ。しかし、真っすぐにキンタマーニ高原を目指すのも味気ない。観光地2カ所をぐるりと回ってからメインスポットへ行くことにした。
ウブド中心街から車で約10分の距離にある洞窟「ゴア・ガジャ」。大きな口を開け、ぎょろりとした目が私たちを出迎える。
建設理由など解明されていない部分が多い、この謎の洞窟。日本語が堪能なガイド、デワさんは「地震によって突如として現れたんだ。瞑想の場として使われていたみたいだよ」と話した。
ムワッと暑く、薄暗い洞窟の中。ガネーシャ神とヒンドゥー教の3大神がまつられ、バリ・ヒンドゥーの神話を聞くも「こればかりは難しい」と嘆いた。
「神様への祈りは手を頭上に。人への祈りは胸の位置に」とデワさん。偶然居合わせたウクライナ出身の観光客と共に祈りを捧げた。
次に向かうはゴア・ガジャから車で約25分の聖なる泉「ティルタ・ウンプル寺院」。かの有名な観光地はここにあったのか! とテンションはうなぎ登り。しかし、喜びは束の間。地面から這い上がり、肌をチクりと噛む赤アリに半泣き状態。まともに写真も撮れないまま、寺院内から見える今は迎賓館として使用されているスカルノ初代大統領の別荘や透き通る池などを流し見した。
最後はティルタ・ウンプル寺院から車で北上すること約30分。メインディッシュのキンタマーニ高原へ。バトゥール山とバトゥール湖を見下ろせるカフェに到着した。
迫力ある美しい自然を眺めながら、食事を欲するお腹を安心させてやる。だが、雲行きに怪しさを覚えれば時既に遅し……。壮大な景色から視界は真っ白な世界へ。シャッターチャンスを易々と手放してしまった。
落胆しながらデワさんおすすめのコーヒーショップに移動。高原地帯の大雨は、常夏の国で真冬のような寒さだ。震えながら一息つき、バリ島にまつわる時事ネタでデワさんとお喋り開始。
外国人観光客の足が遠のかないか危惧される入島税。「決めるのはお偉いさん。私たちの意見は関係ない」とデワさんは諦め顔。さらに、バリ島内で建設予定の軽量高架鉄道(LRT)では、「この島に電車は必要ない。もう、これ以上自然が壊れていく姿は見たくない」と反対だった。
車やバイク以外の移動手段ができ、喜ばしいニュースだと信じていた自分。そこで暮らす当事者の気持ちに気づくことができず恥ずかしいと思った。(バリ島=青山桃花、写真も)