異国情緒に癒やしの空間 過去も未来もベストミックスで コタ・トゥア
ファタヒラ広場を中心に広がるジャカルタの旧市街区、コタ・トゥア。東インド会社の面影を残す植民地時代の遺産だ。しかしながら、そこに暗さを感じない。路地裏に入れば、貧困層の暮らしがある。街の管理もちぐはぐかもしれない。それでもふらっと訪れると、異国情緒が漂う癒しの空間がある。いや、この国の懐の深さに安堵しているのかもしれない。
昼ごはんに何を食べるか。その日のコタ・トゥア再訪は、ランチの算段から始まった。コロナ禍明けから急ピッチで進む街の整備。近況を見てこようと決めるまで、そう時間はかからなかった。
小欄でも何度か取り上げたが、ジャカルタ特別州政府はこの街の再建に取り組んでいる。計画の源流は半世紀前に当時のアリサディキン市長が描いた〝夢〟。「オールド・バタビア(現コタ・トゥア)」の再開発に取り組んだことに始まる。
ただ、利権関係が複雑に絡んでプロジェクトは一進一退。その中で開発断行の狼煙を上げたのが、次期大統領選に立候補しているアニス・バスウェダン氏だった。
アニス氏は州知事だった2021年4月、エリック・トーヒル国営企業相とコタ・トゥアをジャカルタ屈指の観光地として整備すると宣言。コタ駅からファタヒラ広場に広がる一帯を公園化し、中華街のパンチョラン地区には碑楼が完成、遊歩道の整備も進んでいる。
アニス氏は翌年の22年10月に任期満了となり、大統領選に出馬すると再建計画はまたしても止まったかのように見える。
「観光客が戻らない。広場の整備は進んだが、賑わうのは屋台ばかり。街の再開発にはいたっていない」
ため息交じりに話すのは、老舗レストランのカフェ・バタビアで働くイスマルさん(34)。コロナ禍前は昼時ともなれば入店待ちの行列ができるほどだったが、その日は土曜日にもかかわらず、テーブルは半分も埋まっていない。
一方、ファタヒラ広場のジャカルタ歴史博物館で解説員を務めるラフィカさん(27)は、「オランダ植民地時代も、日本軍政時代も誇れる歴史じゃない」。その上で「大切なのは未来志向。歴史はゆっくり受け入れればいい。多様性のインドネシアならそれができるはず。過去も未来もベストミックスに」と清々しい笑顔を見せてくれた。
この日の締めくくりはラッフルズ系列のバタビア・マリーナでのランチ。ヨットハーバーにあるコロニアル様式の洋館で、海風が抜けるオープンテラスで食べるハンバーガーがお気に入りだ。
食事をしながら思い出すのはラフィカさんの話。インドネシアのポジティブ思考に改めて感服する一方、当事者でもある日本はどう応えていくのか。ラフィカさんが見せた眩しい笑顔につい甘えている自分に気付き、考え込んでしまった。(長谷川周人、写真も)