選挙後の新たなパワーゲーム
いよいよ今週水曜日は大統領選挙の投票日だ。選挙戦を振り返って、今回の選挙をどう評価すべきか。そして選挙後に何が待っているのか。
今回の大統領選挙は、おそらく1998年の民主化後もっともダーディーなものだと歴史に刻まれよう。原因は、現職大統領が特定の候補者を全面的にテコ入れし、院政を敷こうとしているからである。これまで、そういうことを試みた大統領はいない。
ジョコウィ大統領は、6つの大きな力を持っている。軍、警察、官僚を末端まで動かす力。財閥とボランティア組織を全国規模で動かす力。そして草の根で生活支援物資をバラまく財政力。これらのリソースをフル動員して、息子のギブランを副大統領候補に据えるブラボウォ候補を側面支援してきた。
その結果、各地で政府機関の中立性が失われ、露骨にプラボウォ支持を強制したり、ガンジャル候補やアニス候補のキャンペーンを妨害する事例が多数報告されてきた。また、汚職捜査をちらつかされて、プラボウォ支持を迫られた閣僚や各地の地方首長も少なくない。さらにはジョコウィを非難する全国の大学教員や学生組織も、治安機関の圧力を受けてきた。ポスト・スハルト時代に、自由で民主的な選挙が、これほどまで崩されたことはなかった。
その今回の選挙結果は、プラボウォの勝利で決まりであろう。過半数票を取って一発で決めるか、上位2人で競う6月の決戦投票に持ち越すかは際どいところだが、どちらにせよプラボウォは、他候補に対して世論支持率で30%近くリードしており、この差は埋めがたい。決戦で2位と3位が組むというシナリオも、机上の足し算でしかない。
おそらくジョコウィは、今回の選挙結果を受けて、勝利の達成感と自身の絶大な政治力をあらためて確信するであろう。しかし、選挙が終わった瞬間から、彼には次の戦いが待っている。それはプラボウォとの権力闘争である。
プラボウォは「チーム・ジョコウィ」を標榜し、次期政権でジョコウィとギブランとの権力共有を約束するものの、それが守られる保証は何もない。すべてはプラボウォの意のままだ。選挙が終わった途端に政治求心力はプラボウォに移り、ジョコウィはレームダック化していく。退陣後になんの権力基盤も持たないジョコウィが、プラボウォに影響力を行使し続けるのはきわめて困難だ。
プラボウォも、権力を固めるためにジョコウィを徐々に遠ざけるであろう。ギブランに与える権限も最小化していくはずだ。自分の時代に前任者の影響力など残したくないと考えて当然である。
ジョコウィは大きな与党連合を組んで政権を安定させ、権力を自らに集中させ、メガワティ元大統領の影響力を削いできた。プラボウォも同じことをするであろう。その過程でジョコウィもお払い箱となる可能性がある。
いかにジョコウィは、その展開を回避し、プラボウォへの影響力を保持し、家族の政治生命を維持していくのか。秘策がないままプラボウォを信じているとは思えない。息子の権力強化が鍵になろう。
この両者のパワーゲームが今始まろうとしている。その展開次第で選挙の「真の勝者」が見えてこよう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)