天皇陛下のバティックを探しに ギリロヨ村 ジョクジャの新たな観光地?
天皇皇后両陛下が友好親善を目的とした令和流の外国訪問を終えられ、一躍有名になった〝ある村〟を訪ねた。それは、ジョクジャカルタ国際空港から車で揺られること約1時間の場所に位置する、ジョクジャカルタ特別州バントゥル県の手描きバティック制作・販売所「ギリロヨ村」。何を隠そう、天皇陛下がお召しになったバティックを制作した村だ。
村に到着するとバティック職人のキブティヤさん(56)が迎え入れてくれ、開口一番に「あなた日本人ね? 天皇陛下のバティックがご希望かしら?」と聞く。どうやら噂を嗅ぎつけた邦人がちらほら訪れ、ジョクジャの新たな観光スポットになっているようだ。
6月22日、ボロブドゥール寺院(中部ジャワ州マグラン県)を視察された天皇陛下。お召しになった長袖のバティックは、ジョクジャの伝統柄「Wahyu Tumurun(ワハユ・トゥムルン)」と「Truntum(トゥルントゥム)」の2種が組み合わせられたもの。
王冠や花、鳥がモチーフになった「ワハユ・トゥムルン」は、神から啓示や恵みが下る。夜空に降る星をイメージした花柄模様「トゥルントゥム」は愛が再び戻る、再び開花するといった意味を持つ。
キブティヤさんによると、バティック1枚を完成させるのに1カ月半~2カ月かかるという。お気に入りのバティックに出会うのは一期一会なのだ。
天皇陛下が着用されたバティック。これ以上の土産はないだろうと思い、両親と自分へ一品を選ぶ。しかし、同じ柄でも、色が違うと表情がガラリと変化する。ショールームをひっくり返すかのごとく、布を当てさせてもらった。軽く2時間は悩んでいたと思う。
熟考する私を見てキブティヤさんは「いいのよ。営業時間はまだ長いから」と温かい声を掛けてくれる。
服は好きだが、バティックの知識は皆無。彼女にこのモチーフの意味は何? と質問する度、噛み砕いたインドネシア語で説明してくれる。
「これは天然染料のバティックよ。通常より時間がかかるわ」「これは『調和』を意味して、着る人に足りないものを補ってくれるの」
一方、売れ行きを彼女に聞くと月に70~90枚。1日に2、3枚売れれば上々だと返ってきた。また、1チーム約4人で作業工程を分担しており、バティック職人含め従業員は約35人という。
ギリロヨ村で販売されるバティックは1枚1万~2万円となり、手描きバティックとしては破格。売価が職人の手にそのまま渡るわけではなく、20%は村の維持費や従業員の給料に当てられるそうだ。
買い物を終え、ぽかぽか青空の下、風薫る縁側でバティック職人のお母ちゃんたちがブレンドした美味なるお茶を頂く。「この村の居心地の良さは実家のようだ」。まだ帰りたくないと後ろ髪を引かれながらジョクジャ市内へ引き返した。(ジョクジャカルタ=青山桃花、写真も)